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【海外の廃墟】New Glacier Appersenior Missionary Baptist Church(N.G.A.M. バプテスト教会)

建物外観

GM(ゼネラルモーターズ)のお膝元、デトロイト・シティにある教会の廃墟。名称を日本語にするならば「新グレイシャー・アッパーシニア・ミッショナリー派浸礼(しんれい)教会」とでもなるだろうか。

蔦の絡まるレンガの廃教会

米国を代表する自動車会社の巨大工場が目と鼻の先であるにも関わらず、周囲は恐ろしいほどの活気の無さだ。2009年の経営破綻を乗り越え、この地で再び歩み始めたGM。しかしその後のデトロイト市の衝撃的な財政破綻、大規模リコール問題と逆風は続き、再建はまだまだ途上である事を如実に感じさせる。

控室

その辺りの話はまた後日、自動車関連工場の廃墟記事でするしよう。今回はこの廃教会に直接関係のある話をしたい。

【New Glacier Appersenior Missionary Baptist Church】礼拝堂

この建物が造られたのは1919年、バーケット記念浸礼教会としてであった。世の中では第一次世界大戦がようやく終結した年でもある。建物はその後所有者が何度か入れ替わることになるが、その間一貫してミッショナリー派の浸礼教会として使用された※1。そして1984年に最後の持ち主となる現教会へと所有権が移り、そのまま1993年頃までは使われていたようである。その後程なくして廃墟化してしまったようだ。

礼拝堂中央

歴代の神父たち、そして最後の牧師であるシーブルックス神父(Rev. H. Seabrooks)もまさにこの場所に立ち、集まった信徒たちと共に毎週末祈りを捧げていたことだろう。

信者用の朽ちた長椅子

さて、この廃教会の名前ともなっている「浸礼(バプテスト)教会」とは一体何だろうか? 他の教会とは何か違うのだろうか。

結論から言えば、バプテスト教会とは聖書に記された「洗礼」の解釈について他の宗派と揉めて決別した一派のことで、元々は英国国教会に対抗し分裂したピューリタンの流れを汲んでいる。「バプテスト」という名はその洗礼に関する彼らの主張に由来し、すなわち『洗礼とは水の中に入る「浸礼(Baptisma)」のみによって行なわれるべきであり、頭部に水をかける「灌水礼」や手を濡らして頭に押し付ける「滴礼」は容認できない』としている。

また、キリスト教の洗礼と言うと日本では牧師が赤ん坊を水で洗って祝福するという(ほほえましい)イメージを持つ人が多いが、これもバプテスト教会では認めていない。なぜならば彼ら曰く、「信仰の告白は本人の自覚的な意志によってなされるべき」であるからだ。そしてバプテストの言う洗礼不適格者には、新生児同様に意思表示が困難である先天的障害者や精神病患者等も含まれている※2

窓辺の光

こうして見るとバプテスト教会はいかにも狭量で独善的に映るかもしれないが、現在アメリカで最も支持され信者が多いのは、このバプテスト派のキリスト教会である※3 (なので物件数が多いため廃墟になる教会も比較的多く、こうして通りすがりの外国人旅行者である私にすら偶然発見されるということだろう)。

教会の礼拝堂に繁茂する植物

さらにこの宗派は、宣教師団や神学校をも否定する「元祖バプテスト(硬派 Hard Shell、アンチ・ミッショナリー Anti-missionary とも)」と、それらを否定しない「ミッショナリー・バプテスト」に分裂した。また中には「選ばれし者のみが救済される」とまるで厨二病めいたことを言い始める新興集団まで現れ、彼らは「パティキュラー・バプテスト(特定救済派)」と呼ばれた。そして遂には自らを神の代弁者として、神に選ばれた者と選ばれなかった者を選別する指導者まで登場した※4

【New Glacier Appersenior Missionary Baptist Church】礼拝堂 別角度

最終的にこの分裂劇を勝ち残ったのは、なんとその「パティキュラー・バプテスト」(そしてミッショナリー・バプテスト)達である。現在イギリスではその対抗派閥であり元々の源流でもあるジェネラル派(普遍救済派、誰もが救済されるとする)は消えつつあり、アメリカにおいても特定救済派が主流である※5

信者席

ちなみに彼らの言う「選ばれし者」になれるかはどうかは、現世での行いについては一切関係が無い。つまり、いくら善行を積もうが悪行を重ねようが、改心しようがしまいが、選ばれし者は初めから神に選ばれており自動的に救われる定めになっている、というのが彼らの主張である。

日本におけるバプテスト教会もこの特定救済主義者たちによって始められ※6、今現在に至るまでそのままそれが多数派である。

ステンドグラス風

こうしてキリスト教の歴史を見てみると、日本でキリスト教(少なくともバプテスト教会)がほとんど流行らない理由も分かる気がする。この教義を聞いて納得するような日本人がそういるだろうか? 日本には「お天道様が見ている」に代表されるような土着思想があり、それが今もなお根強い。

そして特筆すべきは、キリスト教内でのその骨肉の分裂劇であろう。今回はこの廃教会の所属派閥である「バプテスト教会」、すなわちカトリックと袂を分かったプロテスタントの中でもさらにピューリタンの一部の宗派についてだけ見てきたが、その中ですら仲良くできず結局は揉めて分裂しているのは先述の通りだ。ここにバプテスト以外のプロテスタント諸派、さらにはカトリックの各教会や正教会内の宗派等々を考えると、もはやその道の専門家でなければ派閥がいくつ存在するのかすらも見当がつかない。

『むかし、かみさまのいたばしょ』(New Glacier Appersenior Missionary Baptist Church)

神学的な見解の不一致による信者同志のこの壮絶な争いを、今、当のイエス・キリストが目にしたとしたら、彼はそれに対して一体何を思うのだろうか――

【廃墟Data】

探訪日:2016年7月中旬

状態:末期(礼拝堂の一部が崩落。2つある入口のうち1つからは階段が落ちていて入れない)

所在地:

  • (住所)7203 Harper Ave, Detroit, MI 48213
  •    (ミシガン州デトロイト市ハーパー通り7203番地)
  • (物件の場所の緯度経度)42°23'08.7"N 83°01'37.2"W
  • (アクセス)デトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港のレンタカー・パークより、ルーカス・ドライブを東に進み突き当りを左折してミドルベルト・ロードに入る。次の交差点を過ぎてすぐにデトロイト・インダストリアル・エクスプレスウェイ(I-94、インターステート(州間高速道路)94)へと続くランプが右に見えるので、そこへ入りI-94へと合流する。そのまま道なりに18マイル進み、217B出口で高速道路を降りる。降りた先のI-94サービスロードを直進すると高速を跨ぎ、そのままハーパー・アベニューへと合流する。高速を跨いでから半マイル程で、左手に荒れ果てた教会の廃墟が見えてくる。