「横向きロッジ」とも呼ばれる、大変な高所にある廃墟ロッジ。
冬ともなれば全てが雪に閉ざされるこの場所には、大小様々な悪霊が集うという。
建物に近づくとまず3階テラスへと繋がる階段が目につく。
しかし階段はひどく損傷している。これを登る気にはとてもなれない。
階段の側面を見る。階段を登った先は食堂だったのだろうか。
雑にフリーハンドで描かれた文字が昭和という時代を偲ばせる。
別の入口はないかと建物の正面側に回る。
ここが正面入口のようだ。「横向温泉ロッジ」の文字がわずかに原型をとどめている。
こちらの階段は崩壊がそれほどひどくはない。ここから中へ入ってみよう。
階段を上って入口の前まで来た。
辺りはすでに夕闇に包まれ始めており、空気はひんやりとしている。
建物の内部はとても暗い。
玄関を入ってすぐ右手。階段の先は宿泊棟なのだが何とも不思議な造り。
無理な増築で建物どうしの高さが合わなかったのだろうか?
誘われるがまま「←入口」へと入ってゆく。
その結果がこれである。
暗闇の廃墟に突如として浮かび上がる壁一面の摩訶般若波羅蜜経。
この廃墟は落書きが非常に多いが、ここだけ他の物とは全く違う異様なオーラを放っていた。
後で聞くとここは火事で亡くなった人の死亡現場とされ、女性の霊の目撃情報もあるようだ。
息が詰まり、一旦外へ出る。
ふと視線を感じて振り返ると、沢山の目が私の事を監視していた。全体的に嫌な雰囲気。
夜が迫りいっそう深さを増した廃墟の中の暗闇は、私の侵入を拒絶しているかのようだ。
ここでただ独り暗闇と対峙する自分。
再び建物の中に入るかどうか迷う。
太陽はとうに姿を隠し、西の空を染めるオレンジ色の残光となって消えるのを待つばかりになった。
故郷より遠く離れた見知らぬ土地…そこの廃墟で自分はただ独り、この寂れた風景が段々と光を失っていく様を眺めている。
この言葉には替え難い寂しさと、美しさ。
世界の終わりというのはきっとこんなような光景なんだろうな、と少し思った。