連続廃墟小説
第三話「捜索」
「ああ……忙しい忙しい」
ダルマどものマシンガントークをひたすらかわし続けてしばらく行くと、ガシャンガシャンという金属音と共にしわがれた声が聞こえてきた。
声の方向に視線をやると、何か缶をいっぱい背負ってる爺さんがいる。キツネ顔の少女以外では初めて人に出会った。私は恐る恐る話しかけてみる。
「あの……」

「なんじゃお前は。ワシは今忙しいんじゃ」
いきなりの拒絶モードに心が折れそうになるが、どうやら害は無く話も通じそうだ。
「自分の名を取り戻したいのですが、どうすればいいでしょうか?」
爺さんはその質問には答えずしばらく無言で落ちている缶を拾っていたが、やがてため息混じりにゆっくりと話し始めた。

「お主、道に迷っておるな」
「まぁ……そうですね」
「そういう時人はどうするものだ?」
少し考えて、私は言った。
「地図を見たり、地元の人に道を聞いたりですか」
「バカモン」
頭をこづかれた。
「道案内と言えば、船頭じゃ。そのくらい常識じゃろ」
山に船頭とかイミフ過ぎワロタ。どこぞの諺か。
「だがワシも船頭がどこにおるかまでは分からん。なんせ船頭だからな、船乗りはひと所に留まってなどおらん」
ならばどうすれば良いかと私に問いかける糞ジジイ。分からないと答えるとまた頭をこづかれた。
「自らに迷った時はカミサマに尋ねるものじゃ。この先に運玉がある。占ってもらってこい」
そう言うと爺さんはまた忙しい、忙しいと言いながら缶拾いに戻っていった。
私は小さな声で礼を言うと、こづかれた頭をさすりながら教えられた方向に歩き始めた。

爺さんの言う「運玉」がどういう物なのかまったく分からなかったが、着いてみればなるほど、それはまぎれも無く運玉だった。でも、何なんだこれ……?
「字の真ん中に触れるのさ」
声の方向に視線を送るが、誰もいない。
気のせいかと思い、玉の方を向き直すとまた声がする。
「こっち、こっち」

よく見ると、灯籠をかぶったすごく緑色の奴が地面に寝転んでいた。というよりも頭と足が地面に突き刺さって動けなくなっているようだ。
気を使って掘り起こそうとする私に緑色の奴が言った。
「ああ、いいんだ、ほっといてくれ。僕はこれが気に入ってるんだ」

私は最初に言われた通り、運の字の真ん中に手で触れる。
「それからどうするんだ?」
「『運命を司りし珠よ、我が行く末を指し示し給へ』と唱えるのさ」
その通りに呪文を唱える。
すると、隣にあった円柱形の標の一部がおできみたいにポコっとせり上がった。
「さ、標の指し示す方向に行くといい」
「いや何か、一つでなくいくつかあるんだが」
「未来は不確定な要素に満ち溢れているものだよ。どれでも好きなものを選ぶといい」
何だそれ……結局行きあたりばったりなんじゃないのか……?と不安に思うも、とりあえず一番大きくせり上がった「不運」を選ぶ。
「なるほど、キミはそういう選び方をするんだね」
「ああ、色々とありがとう」
正直不安はぬぐえないが、とりあえず今はこれを信じるしかない。
私は標の指し示した方向に向かって歩き始めた。
その後姿を見送りながら、緑色の奴がそっとつぶやく。
「ニンゲンは自分で思ってるほど、不運でも幸運でもないものさ」
◇
続く......第四話「奪還」