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ダルマの里:第四話「奪還」

連続廃墟小説
第四話「奪還」

幸運にも標の指し示す方向に船頭せんどうはいた。

ダルマの里_04_星の船の船頭

船頭と言うには突っ込み所が多すぎるというか、むしろ突っ込み所しかないような気もするが、そんな細かい事はもういちいち気にしていられない。さっそく私の名を奪ったダルマの居場所をたずねてみる。

「ああ、知ってるさ。知ってるとも」

やった……これで助かる。そう安堵あんどする私を尻目に、船頭は居場所を教えてやる代わりにと言って、とんでもないものを要求してきた。

「腕おくれよ、腕」

ふざけんなよ……無理に決まってるだろ常識的に考えて……
変更を要求するが、腕をくれないのなら絶対に場所は教えてやらないと言う。

「いや……大体なんでそんなものを欲しがるんだ」

「めずらしいし、いいものだよ、腕って。なにせ、ここには腕のないやつらばっかりだからね」

ええ……何それ……。
しかし腕かぁ……まぁ、左腕なら……マニュアルバイクに乗れなくなるのが痛すぎるが、それでも右クラッチにカスタムして練習すればあるいは……

さんざん悩んだあげく、もはやこれしか方法はないとさとり腹をくくる。

「ああ、分かった、仕方ない。左腕ならいいぞ」

背に腹は変えられん。畜生。

「ありがとう、ありがとう」

ダルマの里_04_星の船の時計

そう言うと、船頭は私から左腕を強引にもぎ取った。
もっと魔法とか不思議なチカラとか、そういうので持ってくんじゃねぇのかよ糞が!!!

私は自らの浅はかな考えを呪いながら、激痛のあまり叫び声にもならない声を上げてその場に崩れ落ちた。

「うふふ」
「ふふ」
「ニャハハ」

船頭はそうしてひとしきり私の左腕を眺めたり、いじくり回したりした後、

「でもよく考えたら、あたしはすでに自分の腕を2つ持ってるんだよな」
「3つもいらないや」

そう言って、また左腕を元の位置に戻してきた。

「く"あ"あ"あ"あ"あ"!!!……って、あれ?」

いつの間にか痛みは消えていた。腕もちゃんと動く。

「お探しのダルマはこの先だよ。手足のあるダルマさ」

船頭は樹の陰に隠された道を指さした。

何だかキツネにつままれたようだ。私はフラフラになりながらも礼を言い、その奥へと進んで行った。

ダルマの里_04_沢沿いの道

沢沿いの道を登っていくと、突きあたりの空間に何か赤いものが見えた。

「あいつか……」

見つけた。ついに見つけた。あいつで間違いない、手足のあるダルマ。
私は身構えると、震える足をゆっくりとそいつの方に進めていった。

ダルマの里_04_手足のあるダルマ

「見つけたぞ。さあ、名前を返してもらおうか」

ダルマは意地の悪い笑みを浮かべるばかりで、何も語らない。

「何がおかしいんだ、畜生」

くそ、やはり実力行使しかないのか。
俺はこいつに勝てるのか? こんな得体のしれない奴に……

私が踏み切れないでいると、もったいぶりながらダルマが言った。

「お主、元の世界に帰って、それでどうする」

ダルマはニヤニヤと笑う。
不意の質問に驚くが、私はすぐに言い返した。

「そんなのお前の知ったことじゃない」

私は言葉を続ける。

「次の廃墟が俺を待ってるんだ。こんなダルマしかいないような所に、いつまでもいるわけにはいかないんだよ」

それを聞くとダルマはほほ、と笑いながら

「まぁそれもよかろ。ほれ、お主の名じゃ、返してやる」

と言い、私の頭の上に手を乗せてきた。
そして目の前がパッと光ったと思うと、手足のあるダルマは消えていた。

ああ……そうだ、これが俺の名だ。やっと、家に帰れる。

ダルマの里_04_美女の石への道

このクソッタレな世界ともオサラバだぜ!

元来た道を戻り、キツネ顔の少女が言っていた「美女の石」への道を駆け抜ける。するとその先に、例の隠れ家と思しき建物があった。

これで助かる……そう思い建物に入る。
しばらくして、足音がしたので少女かと思いそちらを振り返った。

ところが……

ダルマの里_04_骨折ピエロ

!!!!??? 何だコイツ!? 最初から中にいたのか?!

明らかに面白すぎる体勢をした子供のピエロみたいな奴と目が合ってしまった。どこからどう見てもこの世のものではない。

しまった、出口そっちじゃん……

ああ! ようやくここまで来たってのに、俺はなんてミスを! とにかくどうにかしてやり過ごさねば……笑顔、笑顔。

「こんにちわ。素敵な骨格ですね」

そう言うと私は「それでは……」と手刀を切り、スタスタと彼の横を素早く通り過ぎようとした。

目線がチクチクと刺さる中、半分涙目になりながら彼の真横を通り抜けようとしたまさにその瞬間、

「ああ、そいつはオレ様の友達なんだ。大丈夫」

懐かしい声とともに、キツネ顔の少女が私の前に現れた。

……緊張の糸が切れた。混乱して口をパクパクさせながら狼狽うろたえる私に、少女が告げる。

「こいつもオレと同じなんだ。名を持ったまま、帰れなくなった」

へたり込む私の顔の横でピエロの目がニヤり、と笑った。


続く......最終話