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ダルマの里:最終話「懐かしの君へ」

連続廃墟小説
最終話「懐かしの君へ」

馴化(じゅんか)、と言うらしい。

魂は、その世界に適した形を取ろうと徐々にその形を変えてゆく。そして変化を終えた魂が「名」によって世界に根を張り固定されてしまうと、生きている間はその世界から出ることができなくなるという。
──そう、名を奪われでもしない限り。

「どうしてそうなる前に出なかったんだ、出口も分かってたんだろ?」

「いつか、お前さんがここに来ると分かってたからねぇ」

「え?」

返事もままならないうちに、少女は矢継ぎ早に言葉を続ける。

「時間がない、急ごう」

ダルマの里_05_帰路の駛走

そうだった、名を取り戻した私はこの世界に長く留まるわけにはいかない。駆け足で先をゆく少女を見失わないよう、息を切らしながら必死に追いかける。

しかし、あぁ……はやい……! 彼女は走りだすとまるで風のようだ!

「何やってんだ、だらしないな(笑)ほら」

不意に彼女が私の手を引く。すごい力だ。
私の体は宙に浮き上がり、彼女と一体となって野山を駆け抜ける。
頬を吹き抜けてゆく心地よい風。次々と後ろへ流れ去ってゆく景色。ああ……この感じはまるで……

ダルマの里_05_現世への階段

どうやら目的地に着いたようだ。この階段を抜ければ現世、という事らしい。
さすがの彼女も疲れたのか、暑そうに服をパタパタさせながら、

「さ、これでお別れだ。短い間だったけど、楽しかったよ」

そう言ってこちらに手を振る。その顔は満足そうだ。
現世との境界を抜ける刹那、私も笑顔でそれに応える。

「俺も楽しかったよ、久々にお前と走れてさ。ありがとな」

ダルマの里_05_思い出は風と共に

後には何事もなかったかのように、朽ちかけた階段があるばかりだった。
新緑の季節の暖かな木漏れ日が辺りを優しく照らし出す中、我が春を謳歌しようと山鳥たちがせわしなく歌っている。

少女はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがで天を見上げながら、かすかに微笑んだ。

「……オレ様の後輩によろしくな」

そしてまた、風の中へと消えていった。


(完)


終わりに......

※最後の画像はこちらのサイトより許可を得てお借りしました。