というわけで、編集後記です。
小説内では登場しなかったダルマの写真なども交えてご紹介させて頂きます。
今回、全5回に渡り連載した「廃墟奇遭譚『ダルマの里』」、いかがだったでしょうか?
いささか無粋と思われるのであえて明示はしませんが、ヒロインの狐さんには設定上の名前がちゃんとあります。「風」に関係する名前です。私が初めて買ったバイクにつけようとしていた名前でもありました(結局は普通に機種名で呼ぶことにしましたが)。
バイクのイメージ(速い)で風の名前、となるともうほぼ答えを言ってるようなものですが……💦 彼女のイメージにもピッタリです。
この辺は今回のお話の肝でもありますね。
──さて、廃墟を題材にした小説というと、私は何度かイベントでご一緒させて頂いたガラクタ運喪店さんの「喪失廃墟物語」シリーズが思い浮かびます。
しかしながらまさか自分もこうして小説を書くことになろうとは露程にも思っていませんでした。

その私が書こう、と思った最初のキッカケはあの狐顔の少女との出会いでした。ダルマがメインの場所にも関わらず、私が一番心惹かれたのはダルマではなく、森の中に佇むこの一匹の白い狐でした。
正確な場所も規模も分からず、ほとんど迷い込むのと同然に里を訪れた私に、かの少女はこう囁きます。
「おや、お前さんニンゲンかい?」
「ここは『ダルマの里』。ニンゲンじゃ3日と生きられないよ(笑)」
いや、正確には私がそのセリフを何度も何度も朗読しながらバシバシと彼女の写真を撮りまくっていました。
完全に不審人物ですね、知ってました。本当にありがとうございます。
──しかし、全てのお話はここから広がりました。
普通に写真を載せるよりも小説形式にした方が魅力が伝わるのではないか?
そんな新しい試みを私に実行させてしまう程インスピレーションの湧く、本当に魅力的なキャラクターだったのです。
写真の中の彼女は、皆さんにも私の時と同じセリフを語りかけてきてくれているでしょうか。

その後の様々なキャラクター達との出会いも、私にとっては驚きの連続でした。今回のお話はもちろんフィクションですが、半分はノンフィクションとも言えます。新しい出会いがあるたびに実際に私はあのように感じ、自分の足でああいう冒険をしてきたのです。

現地の雰囲気に飲まれ、探索中はすっかりお話の登場人物の一人になってしまっていた私ですが、一方で冷静な自分もそこには居ました。
その自分が現地で思ったことは、
「この人、社会では失敗したかもしれないけど、作品は残ったな。」
ということでした。
作者は一度は立身出世したもののバブル崩壊だかで一転、多額の借金を背負ってしまった人物、ということは知っていました。
どん底に落とされ、そこから何とか這い上がろうとする彼の精神世界が生み出す独特な作品群は、それらが人里離れた山奥に埋もれかけて眠っているというシチュエーションも相まって、不思議な魅力を放っていました。

人々に何かを訴えかけるものが「芸術」の定義であるならば、それらは紛れも無く優れた芸術でした。芸術に別段の興味もない一般人にこうして自分の作品が注目される、という芸術家は世の中に一体どれだけ居ることでしょう。