(→「その1:時間さえ凍り付く高原の廃墟」より)
天を埋め尽くす蝶々。
人間たちに張り付けにされた、造り物の身体。
その翅が風を孕むことは決して無いはずだった。
──だが彼らはその生涯でただ一度だけ本物の空を舞い、そして地に墜ちて、死んだ。
ロビーの奥に、館内の案内図にも記載が無い隠し部屋を見つけた。
恐らく古いバーの跡で、併設の建物に新しいバーができた後に倉庫などへ転用されたのだろう。
受付の奥はスタッフルームと相場は決まっている。
こうして防寒仕様の長靴が常備されているのが、この辺りのお国柄を感じさせる。
カレンダーは2001年3月の時点で止まっていた。
決済、そして年度の変わり目を乗り越えられなかったのだろう。
あ か ん 。
どの年度の収支報告書を見てもこんな感じで、負債が雪だるま式に膨らんでいったのがよく分かった。
カビて朽ちていこうとしている商売繁盛の招き猫が物悲しい。
バブルという熱にのぼせ上がった人間の脳ミソは、神様にもどうすることもできなかった。
(→「その3:客室」に続く)