
北陸最恐の心霊スポット、坪野鉱泉(つぼのこうせん)────
こういう場所にはありがちな単なるうわさ話ではなく、このホテルにまつわる数々のヤバい「実話」がその恐ろしさを決定的に裏付けている。冷たい雨がしとつく夕刻、廃墟に向かう私の足は否が応にも震えた。
以下に、この廃墟の探索記録を紹介する。
1. 内部探索(入口~廊下)
2. 客室:坪野鉱泉にまつわる2つの事件
(▲ 野鉱泉女性失踪事件を報じる新聞記事 - 読売新聞(富山総合)1997年5月4日 より引用。著作権保護のため本文をモザイク修正済)
さて、坪野鉱泉と言って地元の人間がまず連想するのは、「坪野鉱泉女性失踪事件」という有名な(元)未解決事件であろう。1996年5月、「肝試しに行く」と車で自宅を出た19歳の少女2名が乗用車ごと消息を絶ったという事件である※11。
状況から見て警察は、2人がこの坪野鉱泉に向かった可能性が高いとして、事件・事故の両面から捜査を進めた。しかし長らく有力な手がかりは得られず、某国による組織的な拉致もうわさされた。
(▲ 富山新港の遺体発見現場の様子 - © BBT(富山テレビ放送)│画像はhttp://gahalog.2chblog.jp/archives/52484129.html より引用)
それが2020年3月になって、事件は新展開を見せる。富山新港の海中から引き上げられた車の中に、24年間行方不明だった2人のものと見られる遺体が発見された※12のだ。
3. 壁:暴走族のたまり場

坪野鉱泉の壁は、心霊スポットの例に漏れず落書きであふれ返っている。しかしこの坪野鉱泉に特徴的なのが「暴走族が書いたものが多い」という点である。その数は一般的な廃墟よりも明らかに多い。
何を隠そう、ここ富山県は「暴走族発祥の地」とされているのだ。暴走族といえば「スペクター」が特に有名で一般には神奈川など東京近郊のイメージなので、そこから遠く離れた富山というのは意外である。

昭和30~40年代、爆音でバイクを走らせる様子から「カミナリ族」と呼ばれた集団がいた。まだ「暴走族」という呼称ができる前のことである。
そして昭和47年6月、このカミナリ族が富山市中心街に百数十台も集結し、約3000人のギャラリーと共に暴徒化して、略奪※1や傷害事件※2にまで発展。そんな彼らをマスコミや警察が「暴走族」と呼称したのが始まり※3 なのだという。
そしてこの騒ぎは富山県内だけに留まらず、その後同年9月までにかけて北陸・中国・四国の各地方都市にまで波及、最終的に2500人以上の検挙者を出した※4。
これが日本の「暴走族」の夜明けである。

だが時は平成・令和となった今、彼らにかつての勢いはない。近年は構成員数もグループ数も減少の一途をたどり※5、現在の規模はピーク時の実に6分の1にまで減少した※6。
新規参入の若者の減少から代替わりするにできず、暴走族も高齢化が進んでいる※7という。

その原因は少子化や取り締まりの強化というよりも、若者を取り巻く環境の変化の方が要因として大きいだろう。
何の娯楽もなかった当時に比べて、今はスマホやTV、ゲーム機器などが普及し安価で刺激的なコンテンツが身近にたくさんある。

わざわざ特服に身を包んで集会に参加して、嫌なセンパイの言う事に絶対服従などせずとも、はるかに手軽で楽しいことが他にたくさんあるのだ。肝心のバイクだって雨風にさらされるし、暑くて寒くてダルいし、金だってかかる。
こうして暴走族はだんだんと廃れていき、特攻服に代表されるヤンキースタイルももはや「時代遅れの、ダサい」イメージのものとなりつつある。
そしてそれは、ここ「暴走族発祥の地」富山でも例外ではない。
4. 壁:ある種のタイムカプセル

30年以上も前から廃墟として存在し解体されずに今も残っているために、坪野鉱泉にはその年輪が歴代の来訪者の落書きとなって壁という壁に刻まれている。
そのうち暴走族関連のものは前章で紹介したが、本章ではそれ以外のものを主に見ていきたい。

あ ゆ 命。「暴走族以外」と言っておいて初っ端からこれで申し訳ないが、ものすごく暴走族っぽい。「○○命」というフレーズも、一般人の間ではすっかり耳にしなくなった。
他には右上に「3/28 ゆうきしゅん 1992」という文字が見える。坪野鉱泉の倒産・廃墟化は1982年※14なので、それから10年後のものということになる。事実、この頃にはとっくに暴走族のたまり場になっていたようで、92年までには2件の放火事件が発生している。
あと写真左上のフジタ連合のフジタさん、「連」の字がちょっと……

平成6年(1994)5月28日は確かに土曜日である。当時の書き込みと見て間違いないだろう。これはあの女性失踪事件の起こるちょうど2年前だ。事件前からすでに心霊スポットとして一定の人気があったことを窺わせる。
5. 浴場等:鉱泉水の現在(薬師の水)

「廃墟化後も源泉は枯れておらず、今も地下から滾々と湧き出している」という廃墟ロマン溢れる激アツ情報を事前につかんでいたので、それについても現地調査してみればなんのことはなかった、普通の水汲み場だった。

しかしそれ以上に私をがっくりさせたのはその水質だった。
この岩盤に磨き抜かれて透き通った水! すっきりと五臓六腑に染み渡るさわやかな喉ごし! これ完全に「六甲のおいしい水」だわ……ってあれ? 温泉じゃないの???※16。
加賀のしょっぱい水やら別府の茶色い水やらを飲み歩いてきた私にとってこれは相当ショックだった。「鉱泉」というからには何らかの治癒成分(胃腸に効くらしい)が含まれていると思いたいが、正直そこらのコンビニで売ってる水と区別がつかない……釈然としない……
もっともこうして現地調査をしている間にも地元の方が2名ほど水を汲みにいらしていたので、水質の良さは確かなようだ。北山薬師堂の上流部にあたるので「薬師の水」として愛されているとのこと。

というかそこが共同浴場跡であってくれなければ、客は各部屋に設置されているこの異様に狭い謎の空間で温泉に浸かっていたことになる。
これ広さ的に洗濯機置くスペースだよね? 本当にここに人が入るの? ありえなくない? 懲罰房かな?

懲罰房 お風呂からの眺め。田んぼばかりで他に目を引くものはなにもない。
市街地からのアクセスも悪く周りは田んぼだらけ、目立った観光スポットも無い。建物自体の設計も古く、立ったままでしか入れない風呂に、頭が着きそうな(というか着く)くらい低い中二階の天井。これでホテルが潰れないという方がどうかしている。
現在の資産価値は全くのゼロで、むしろ毎年かかる固定資産税の分とんでもないマイナスと言える。しかし解体するにもその費用だけで数千万円以上かかると思われ※17、かといって所有権を放棄することもできず※18、結果としてそのまま建物を放置せざるを得ない、というのが現状のようだ。
坪野鉱泉はこれからも北陸最恐の心霊スポットとして、この地に君臨し続けることだろう。
6. 映画「牛首村」の舞台として
(▲ 牛首村 予告動画 - 東映映画チャンネル より)
この坪野鉱泉は、2022年2月に公開されたKōki(キムタクの次女)主演のホラー映画「牛首村」のロケ地として使われた。予告編の動画を見る限りでは、この廃墟が物語の主な舞台となっているようだ。
また、映画の題名の「牛首」は、同じ北陸地方にある心霊スポット牛首トンネル(宮島隧道)から取られたと見ていい(少なくとも着想を得たのは間違いない)。ここは「トンネル内に祀られたお地蔵様が血の涙を流す」という怪談話で有名である。実際に内部を探索した様子はリンク先に載せてあるので、興味のある方はぜひこちらもご覧いただきたい。
【廃墟Data】
探訪日:2017年1月上旬
状態:健在
所在地:
- (住所)富山県魚津市坪野
- (物件の場所の緯度経度)36°46'33.8"N 137°27'26.9"E
- (アクセス・行き方)北陸自動車道「魚津」IC下車、高速道路の出口を左折して県道52号線を内陸方面に進む。その後2km程進む間に北陸新幹線の下を潜り、さらに「石垣」交差点を過ぎると、交差点から250m先で県道52号線が終わり、2本の県道67号線に分岐するT字路があるので、そこを右折する(寺まで行くと行き過ぎ)。そのまま県道を4km程進んでいくと、正面にホテルの茶色い建物が見えてくる。県道の左手に「薬師の水」という水汲み場があり、その裏手にホテルがある。