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坪野鉱泉

坪野鉱泉(ホテル坪野)外観 バリケード前

北陸最恐の心霊スポット、坪野鉱泉(つぼのこうせん)────

こういう場所にはありがちな単なるうわさ話ではなく、このホテルにまつわる数々のヤバい「実話」がその恐ろしさを決定的に裏付けている。冷たい雨がしとつく夕刻、廃墟に向かう私の足はいやが応にも震えた。

以下に、この廃墟の探索記録を紹介する。

1. 内部探索(入口~廊下)

坪野鉱泉のエントランスの落書き(若林和弘)

バリケードをこえて、ホテルの入口までやってきた。天井まで3メートルはありそうだが、若林さんは一体どうやってサインしたのだろうか……

エントランス前をふさぐ鉄板には穴が空いている

入口は鉄板で封鎖されているが、人ひとりが通れる分だけの穴がこじ開けられていた。

それではお邪魔します……

坪野鉱泉 落書きだらけのエントランスホール

穴から入ってまず見える風景がこれ。落書きだらけのエントランスホールだ。柱には近隣の砺波となみ市を拠点とする暴走族「砺波連合」の文字が見える。

落書き「緑色の男、Mr. Eraserhead」

やたら目立つ緑のコイツは「ミスター・イレイザーヘッド(消しゴム顔の男)」というらしい。ちなみに英語のheadは首から上全体を指す。

エントランスホールの螺旋階段

エントランスホールから伸びる、オシャレならせん階段。

坪野鉱泉の廊下

客室へと続く3階の廊下。経年劣化と人為的破壊ですさまじい荒れ果てようだ。

坪野鉱泉_蹴り壊された客室の扉

鋼鉄製の扉を蹴り壊す破壊力。まさに「若さのやり場がない」といったところか。

2. 客室:坪野鉱泉にまつわる2つの事件

坪野鉱泉女性失踪事件から1年を報じる新聞記事(読売新聞(富山総合)1997年5月4日)

(▲ 野鉱泉女性失踪事件を報じる新聞記事 - 読売新聞(富山総合)1997年5月4日 より引用。著作権保護のため本文をモザイク修正済)

さて、坪野鉱泉と言って地元の人間がまず連想するのは、「坪野鉱泉女性失踪事件」という有名な(元)未解決事件であろう。1996年5月、「肝試しに行く」と車で自宅を出た19歳の少女2名が乗用車ごと消息を絶ったという事件である※11

状況から見て警察は、2人がこの坪野鉱泉に向かった可能性が高いとして、事件・事故の両面から捜査を進めた。しかし長らく有力な手がかりは得られず、某国による組織的な拉致らちもうわさされた。

富山新港の遺体発見現場の様子

(▲ 富山新港の遺体発見現場の様子 - © BBT(富山テレビ放送)│画像はhttp://gahalog.2chblog.jp/archives/52484129.html より引用)

それが2020年3月になって、事件は新展開を見せる。富山新港の海中から引き上げられた車の中に、24年間行方不明だった2人のものと見られる遺体が発見された※12のだ。

海中への転落時の目撃証言

(▲ 海中への転落時の目撃証言 - © KNB(北日本放送)│画像はhttps://syasyaneko.com/sasasoku/?p=897 より引用)

結局この坪野鉱泉そのものは、彼女らの目的地であったというだけで事件と直接の関係はなさそうなことが分かった。

しかし、目撃者の男性らがなぜ20年以上も経った今になって事件を語ったのかや、また証言そのものにも不審な点があるのは事実である。事件の全貌が今後の捜査によって明らかになるのか、注目が集まる。

坪野鉱泉の客室

また、2001年には当時16歳の女子高生が男に「肝試しに行こう」などとここに誘い込まれて乱暴されるという痛ましい事件も起こっている※13。その様子は犯人により撮影され、それをネタに脅された少女は売春で金を作ることを強要された。

いたいけな少女が犠牲となった現場はまさにこの部屋かもしれないわけだ……。

3. 壁:暴走族のたまり場

「富山連合 伍代目 新武神韋涙」と書かれた客室の壁

坪野鉱泉の壁は、心霊スポットの例に漏れず落書きであふれ返っている。しかしこの坪野鉱泉に特徴的なのが「暴走族が書いたものが多い」という点である。その数は一般的な廃墟よりも明らかに多い。

何を隠そう、ここ富山県は「暴走族発祥の地」とされているのだ。暴走族といえば「スペクター」が特に有名で一般には神奈川など東京近郊のイメージなので、そこから遠く離れた富山というのは意外である。

「奥中上等」「海洋上等 全滅」などと書かれた階段の壁の落書き

昭和30~40年代、爆音でバイクを走らせる様子から「カミナリ族」と呼ばれた集団がいた。まだ「暴走族」という呼称ができる前のことである。

そして昭和47年6月、このカミナリ族が富山市中心街に百数十台も集結し、約3000人のギャラリーと共に暴徒化して、略奪※1や傷害事件※2にまで発展。そんな彼らをマスコミや警察が「暴走族」と呼称したのが始まり※3 なのだという。

そしてこの騒ぎは富山県内だけに留まらず、その後同年9月までにかけて北陸・中国・四国の各地方都市にまで波及、最終的に2500人以上の検挙者を出した※4

これが日本の「暴走族」の夜明けである。

「最強」と書かれた落書き

だが時は平成・令和となった今、彼らにかつての勢いはない。近年は構成員数もグループ数も減少の一途をたどり※5、現在の規模はピーク時の実に6分の1にまで減少した※6

新規参入の若者の減少から代替わりするにできず、暴走族も高齢化が進んでいる※7という。

「4649(夜露死苦)」と書かれた落書き

その原因は少子化や取り締まりの強化というよりも、若者を取り巻く環境の変化の方が要因として大きいだろう。

何の娯楽もなかった当時に比べて、今はスマホやTV、ゲーム機器などが普及し安価で刺激的なコンテンツが身近にたくさんある。

「富山県暴音単車隊 STオンパニオン」と書かれた落書き

わざわざ特服とっぷくに身を包んで集会に参加して、嫌なセンパイの言う事に絶対服従などせずとも、はるかに手軽で楽しいことが他にたくさんあるのだ。肝心のバイクだって雨風にさらされるし、暑くて寒くてダルいし、金だってかかる。

こうして暴走族はだんだんと廃れていき、特攻服に代表されるヤンキースタイルももはや「時代遅れの、ダサい」イメージのものとなりつつある。

そしてそれは、ここ「暴走族発祥の地」富山でも例外ではない。

「SKC愚連隊」と書かれた落書き

SKC、砺波となみ連合、富山連合、STオンパニオン……これまで写真で見てきたチーム名はどれもイカれたヤンキーの妄想という訳ではなく実在の暴走族のようだが、この内かろうじて2016年現在も活動を確認できるのは富山連合くらいだ。

砺波連合は2010年の摘発※8を最後に確実な情報がない。県内最後のレディースとされた「音速天女」は、2008年に暴行事件を起こしメンバー7人が逮捕されたのを最後に消滅※9したようだ。

このままいけば日本の「暴走族」が環境省レッドリストの絶滅危惧I類※10に分類される日も近い。

坪野鉱泉(ホテル坪野)の外観

「暴走族のたまり場」「恐ろしい事件があった」……こんなのはどの心霊スポットでも言われており、根も葉もないうわさ話と相場は決まっているのだが、こと坪野鉱泉に関してはそのどちらもが真実である。

暴走族がかつての勢いを失ったとはいえ完全に消滅したわけでもなく、またこうして実際に事件も起こっているとなれば背筋が寒くなるのも無理はないだろう。

「幽霊よりも人間のほうがよほど怖い」
──それを地で行く廃墟がここ、坪野鉱泉なのだ。

4. 壁:ある種のタイムカプセル

坪野鉱泉_外観(県道側から)

30年以上も前から廃墟として存在し解体されずに今も残っているために、坪野鉱泉にはその年輪が歴代の来訪者の落書きとなって壁という壁に刻まれている。

そのうち暴走族関連のものは前章で紹介したが、本章ではそれ以外のものを主に見ていきたい。

AYU命と書かれた落書き

あ ゆ 命。「暴走族以外」と言っておいてしょぱなからこれで申し訳ないが、ものすごく暴走族っぽい。「○○命」というフレーズも、一般人の間ではすっかり耳にしなくなった。

他には右上に「3/28 ゆうきしゅん 1992」という文字が見える。坪野鉱泉の倒産・廃墟化は1982年※14なので、それから10年後のものということになる。事実、この頃にはとっくに暴走族のたまり場になっていたようで、92年までには2件の放火事件が発生している。

あと写真左上のフジタ連合のフジタさん、「連」の字がちょっと……

H6.5.28の落書き

平成6年(1994)5月28日は確かに土曜日である。当時の書き込みと見て間違いないだろう。これはあの女性失踪事件の起こるちょうど2年前だ。事件前からすでに心霊スポットとして一定の人気があったことをうかがわせる。

2029年6月14日の落書き

タイムトラベルが不可能である根拠として「未来人が我々の前に一度も現れていないこと」がよく挙げられるが、未来人はすでに日本の富山県に来ていて、心スポ巡りをしていた……?

「高岡戸出ナメンナヨ」と書かれた落書き

なめんなよ、と言えば例の猫※15を想起させる。ブームは1980~82年。

この煽り文句も死語となって久しく、もはや漫画の中くらいでしか見られない。今の暴走族の間でももはや使われていないのではないだろうか?

とすれば、この落書きも相当古い時代のものと考えられる。

コロ助の落書き

コロ助、これも古い。キテレツ大百科という漫画のキャラクターで、初出は1974年だ。

「高行参上!GAL TELくれ!」と書かれた落書き

「ギャル」も死語だなー、今風に言えばJKとかJD?
そういえば「お○んこしたい Eカップ22才 TEL→090…」とか落書きして嫌いな奴の電話番号書く嫌がらせあるよね。

「おっぱい大好き」と書かれた落書き

たいへん正直でよろしい。

とびたさちこ19才相合い傘の落書き

あー、こりゃ完全に未成年者略取ですわ。犯罪ですよ!!!

廃墟デートの跡

でも実際、ああやって扉蹴り壊すような男らしい奴ほどモテるし、彼女と廃墟デートなんかもしちゃって、人生おおいに楽しんでる感あるよね! 僕にも腹筋鍛えてた時期がありました^q^

5. 浴場等:鉱泉水の現在(薬師やくしの水)

坪野鉱泉_ホテル坪野と薬師の水

「廃墟化後も源泉は枯れておらず、今も地下から滾々こんこんと湧き出している」という廃墟ロマン溢れる激アツ情報を事前につかんでいたので、それについても現地調査してみればなんのことはなかった、普通の水汲み場だった。

坪野鉱泉_水質検査成績書

まぁ、「(治安改善を目的に)整備された」ともどっかで見ていたので大体想像はついてましたが……

坪野鉱泉_薬師の水

しかしそれ以上に私をがっくりさせたのはその水質だった。

この岩盤に磨き抜かれて透き通った水! すっきりと五臓六腑に染み渡るさわやかな喉ごし! これ完全に「六甲のおいしい水」だわ……ってあれ? 温泉じゃないの???※16

加賀のしょっぱい水やら別府の茶色い水やらを飲み歩いてきた私にとってこれは相当ショックだった。「鉱泉」というからには何らかの治癒成分(胃腸に効くらしい)が含まれていると思いたいが、正直そこらのコンビニで売ってる水と区別がつかない……釈然しゃくぜんとしない……

もっともこうして現地調査をしている間にも地元の方が2名ほど水を汲みにいらしていたので、水質の良さは確かなようだ。北山薬師堂の上流部にあたるので「薬師の水」として愛されているとのこと。

坪野鉱泉_共同浴場跡?

今は完全に崩れて草木に埋もれてしまっているが、ここでその鉱泉水を沸かして入浴に供していたのだろう、多分……とてもそうは見えないけど……

坪野鉱泉_浴室

というかそこが共同浴場跡であってくれなければ、客は各部屋に設置されているこの異様に狭い謎の空間で温泉に浸かっていたことになる。

これ広さ的に洗濯機置くスペースだよね? 本当にここに人が入るの? ありえなくない? 懲罰房かな?

坪野鉱泉_浴室からの風景

懲罰房 お風呂からの眺め。田んぼばかりで他に目を引くものはなにもない。

市街地からのアクセスも悪く周りは田んぼだらけ、目立った観光スポットも無い。建物自体の設計も古く、立ったままでしか入れない風呂に、頭が着きそうな(というか着く)くらい低い中二階の天井。これでホテルが潰れないという方がどうかしている。

現在の資産価値は全くのゼロで、むしろ毎年かかる固定資産税の分とんでもないマイナスと言える。しかし解体するにもその費用だけで数千万円以上かかると思われ※17、かといって所有権を放棄することもできず※18、結果としてそのまま建物を放置せざるを得ない、というのが現状のようだ。

坪野鉱泉はこれからも北陸最恐の心霊スポットとして、この地に君臨し続けることだろう。

6. 映画「牛首村」の舞台として

(▲ 牛首村 予告動画 - 東映映画チャンネル より)

この坪野鉱泉は、2022年2月に公開されたKōki(キムタクの次女)主演のホラー映画「牛首村」のロケ地として使われた。予告編の動画を見る限りでは、この廃墟が物語の主な舞台となっているようだ。

また、映画の題名の「牛首」は、同じ北陸地方にある心霊スポット牛首トンネル(宮島隧道)から取られたと見ていい(少なくとも着想を得たのは間違いない)。ここは「トンネル内にまつられたお地蔵様が血の涙を流す」という怪談話で有名である。実際に内部を探索した様子はリンク先に載せてあるので、興味のある方はぜひこちらもご覧いただきたい。

【廃墟Data】

探訪日:2017年1月上旬

状態:健在

所在地:

  • (住所)富山県魚津市坪野
  • (物件の場所の緯度経度)36°46'33.8"N 137°27'26.9"E
  • (アクセス・行き方)北陸自動車道「魚津」IC下車、高速道路の出口を左折して県道52号線を内陸方面に進む。その後2km程進む間に北陸新幹線の下を潜り、さらに「石垣」交差点を過ぎると、交差点から250m先で県道52号線が終わり、2本の県道67号線に分岐するT字路があるので、そこを右折する(寺まで行くと行き過ぎ)。そのまま県道を4km程進んでいくと、正面にホテルの茶色い建物が見えてくる。県道の左手に「薬師の水」という水汲み場があり、その裏手にホテルがある。