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【この店かしや 協和店】過疎の町 秋田

この店かしや 協和店_全体外観

2014年のゴールデンウィーク末。母方の実家への帰省を終え、東京に戻るべく国道13号線を大曲方面に向けてバイクを走らせていると、何やらとても懐かしい店が廃墟になっているのが見えて思わずバイクを止めた。

この店かしや 協和店_外観アップ

ここは「この店かしや」という秋田のローカルショップで、菓子類に特化した大型のディスカウントストアだ。世間一般にはご存じない方も多いだろうが、秋田県民には良く知られている店である。ちょっとお邪魔しよう。

この店かしや 協和店_内装

うん、店内の雰囲気も当時そのままだ。広々とした店内に、決して五月蝿くないレインボーカラーの彩色。明るく開放感のあるデザイン。

この店かしや 協和店_紅白のカゴ

うわ懐かしい、このカゴ! こいつ片手に店じゅう歩き回ってどのお菓子にするか悩んだ悩んだ……などと郷愁にふけっていた私だが、この後すぐに無慈悲な事実を突きつけられることとなる。

この店かしや 協和店_閉店のお知らせ

こ、これは……! この文面だとこの店舗だけに限った話ではないということか!

そういえばいつだったか帰省中、親戚の子に「この店かしやが無くなっていた」と聞き、当時はてっきりその1店舗だけの事と思っていたが、まさか会社丸ごと潰れていた※1とは夢にも思わなかった……😭

この店かしや 協和店_売り場の中心

というのも、「この店かしや」がとても魅力的で、とてもそうなるとは思えなかったからだ。普段の生活圏には無い、遠く秋田の「おばあちゃんの家」に居る間でなければ行けないという特別感も相まって、帰省の際には必ず足を運んでいた。東京へ戻る際の車内の「食糧の備蓄」は必ずここで買っていたのだ。

この店かしや 協和店_子供目線で見た陳列棚

これが小さな子供目線で見た売り場だ。いかに「この店かしや」が魅力的だったかは一目瞭然、これが端から端まで全部お菓子なのだ! さながらお菓子の万里の長城である。しかも価格は市価より明らかに安い。これで心躍らせない子供がこの世に存在するわけがない!

しかも、皆さんはお気づきだろうか? 先ほどの紅白のカゴ、あれは一般的なスーパーに置かれているようなサイズではなく、小さな子供が十分持って歩けるような小さいサイズなのだ。そのカゴを手に子供たちはあのお菓子の長城の前に立つのである。何から何まで徹底的に子供目線で商売しているのが分かる。

この店かしや 協和店_365日特売

しかしとうに大人になった今、少し考えを巡らせてみれば倒産というのも至極当然な流れだという考えに自然と行き着く。想定される致命的な原因はただ一つ、もはやその「子供」自体が秋田にいないという事だ。

実際のところ秋田県は出生率のワースト10に毎年挙げられるばかりか、人口減少率が全国平均に比べて極めて高い。2017年の記事執筆時点で、人口減少率は4年連続の全国トップであり、県内の総人口は今年ついに100万人を割った※2。県内全ての人間をかき集めても仙台の住民数にすら届かない※3ということだ。

この店かしや 協和店_ポイントカード

県は様々な対策を講じているものの、人口の流出に歯止めはかからない。私の血縁に限ってみても、10年前までは6人が県内に居住していたのが、今や2人だけだ。若い人は仕事を求めて皆県外へ出てしまい、そして二度と戻ってこない。そして近年祖母が亡くなった事で、私自身も秋田の地を踏むことはもう二度と無いかもしれない。

この店かしや 協和店_冷蔵庫

父方の祖父母が物心付く前に亡くなっているため、私にとってのルーツはただ一つこの地だった。しかし今や母方の祖父母もこの世を去り、子供時代を代表する思い出の店もこうして無くなり、家の周りの様子もすっかり変わってしまった。

私が私だったことを証明してくれる何もかもが、この地から消え失せようとしている──

【廃墟Data】

探訪日:2014年5月上旬

状態:解体済み 木材置き場に転用(2018.10)

所在地:

  • (住所)秋田県大仙市協和船沢タラメキ35
  • (物件の場所の緯度経度)39°39'02.0"N 140°16'13.2"E
  • (アクセス)秋田自動車道「秋田南」IC下車、料金所を出て分岐を右に進み国道13号線を大曲方面へと進む。そのまま7.5kmほど進むと(6.5km地点で秋田新幹線の跨線橋を通過する)、右手に「ビッグドン」の看板と巨大な建物群が見えてくる。