
1. 概要・歴史
男鹿プリンスホテルとは秋田県男鹿市にある、地下2階・地上4階建ての大型ホテルの廃墟である。県内でもトップクラスの心霊スポットとして君臨しつづけており、「男鹿プリ」なる愛称までつけられている。
ホテルの営業時期は1969年~1981年まで。その後1983年5月に起こった日本海中部地震ではここに死者を一時安置していたとか、1999年7月にはホテルの3階で男性の焼死体が見つかったとか、いろいろな噂がある。
心霊的な体験談も数多く、特に有名なのがホテルの窓から手を振る女の幽霊が見える・写り込むというもの。他にも、探索時に回していた録音機器などの音声を後で確認すると、ホテル内を案内するような謎の声が割り込んでいた、というものもある。
また、男鹿プリンスホテルの地下には赤い椅子があり、そこに座ってしまった人は近々自殺するという話もよく知られている。だが筆者の探索時には赤い椅子どころか、調度品らしい調度品も地下には見当たらなかった。
それでは以下に、男鹿プリンスホテルの探索の様子を見ていくとしよう。
2. 実際に行ってみた

道をさらにホテルの方へと進むと、なんとバスの待合室があった。当然今は運行されていないが、当時はその必要があったほどここに人がいたということだ。
冷たい雨のしとつくこの寂しい通りを歩いていると、そんなことはとても信じられない。そのためバスの停留所の存在自体がとても異様に感じられる。

こんな半島の僻地にも関わらず訪問者が多いのだろう。バリケードには盛大に穴が空き、おなじみの黄色いテープが無残な姿をさらしている。
心霊スポットとして県内で1・2を争うほど有名というのは伊達じゃないようだ。

おお……近くで見るとかなり威圧感がある。霊感の鋭い人ならこれを霊圧と感じ取るのだろうか。ずらりと並んだ窓も、その配色とデザインのせいで、まるで建物が無数の口を開けて訪問者を待ち構えているかのように見えて不気味だ。
うわさでは、日本で最も有名な霊能者のひとりだった宜保愛子氏ですら除霊を断念し、建物に入れもしなかったというから、そのすさまじさが窺える。

客室はどこもこんな感じ。内装は窓枠どころか床板すら残されていない。このホテルは客室からの展望が評判だったそうだが、それも上階の一部の部屋に限った話なのだろう。ここからの眺めはごらんの通り、あまり良くない。

建物の中にここまで何もないと、建設途中系の廃墟と勘違いしてしまいそうだ。ここの歴史を前もって知らなければ、間違いなく私はそう思っていただろう。
3. 衰退する温泉街

(▲ 4階の客室からの眺め)
男鹿プリンスホテルの最上階からは、男鹿温泉の様子が見渡せる。林立する他のホテルから漏れる明かりはほとんど見られず、活気は恐ろしいほどに無い。
しかし男鹿そのものはそれなりに人の集まる場所なのだ。秋田県民がどこか県内にドライブしに行こうとなれば、たいていは山形県との境にある鳥海山か、岩手県側にある田沢湖か、もしくはここ男鹿半島という事になる。私が住んでいた町は男鹿に近かったのでよく家族に連れて行ってもらっていた。
そうして私は男鹿の遊覧船に乗って海中にいる魚やウニも見たし、水族館に行ってケサランパサランも見た※1。道中、道ばたで売っているババヘラ※2を食べたこともあるし、入道埼の露天のイカ焼きも食べた。今は亡き祖父はホタテの貝柱をよくお土産に買っていた。私の遠く幼き日、暑い夏の思い出である。
だがそんな私ですら、男鹿のこの場所に温泉街があるということを今の今まで知らなかったのである。

(▲ 男鹿プリンスホテル地下の大広間)
秋田で温泉地といえば、全国的にも有名な乳頭温泉がある。ここはその素晴らしい泉質もさることながら、八幡平や田沢湖といった名勝地がほど近く、泊りがけで行く価値が十分にある。山行で疲れた体を癒すにももってこいだ。
しかし男鹿温泉の泉質については聞いたことがなく、完全に男鹿観光頼りの場所だと思われる。だが致命的なのはその肝心の男鹿が「日帰りするのにちょうど良い」という立地なのだ。
特に県内一の人口を抱える秋田市民にとっては男鹿は近すぎて、泊りがけだと時間を持て余す事必至である。ゆったりとホテルで日本海に沈む夕日を眺めながら……という展望の良さもないことが、こうして実際に探索してみると分かる。
そうして人々からは男鹿温泉の存在が忘れられていったのだろう。そこに全国ワースト1位の人口減※4が覆い被さる。そうした状況下にある男鹿温泉一帯のホテルの経営が厳しいであろうことは想像に難くない。

(▲ 男鹿プリンスホテル地下の一室)
今、温泉町はここに限らずどこも経営は厳しい。熱海や鬼怒川といった全国区の温泉地でさえ廃墟化したホテルが目立つというありさまである。
そのあまりの惨状には、廃墟愛好家であると同時にひとりの日本人である私にとって、とても複雑な思いを感じさせられる。
この男鹿プリンスホテルもまた、所有者が雲隠れしており、県側も取り壊しするにできないという状態である。そして今も解体されることのないまま、男鹿温泉郷のはずれに立ち尽くしている。
【廃墟Data】
状態:健在
難易度:★☆☆☆☆(最低)
駐車場:なし
所在地:
- (住所)秋田県男鹿市北浦湯本草木原 付近
- (物件の場所の緯度経度)39°58'21.8"N 139°44'28.5"E
- (アクセス)男鹿温泉郷の南西に位置する。秋田市街からは、県道56号→国道101号→なまはげライン経由で1時間10分ほどの距離(52km)
【脚注】
※1^
※2^
クソ暑い夏の日、車が多数行き交うアスファルトの照り返しがとてもキツい国道脇に、ド派手なパラソルを差して座っている風流なババアが居たら、それが「ババヘラ」だ。話しかけると報酬と引き換えにババアがヘラでアイスを取り分けてくれる。
秋田県内では割とありふれた存在だが県外では全く見ることができず、一時はカッペの妄言・UMA・都市伝説とさえ言われた(そんな所にババアがいるわけが無い)。
車の排ガスや道路の照り返しなど若者でもかなり厳しい環境のはずなのだが、不思議とババア以外を見たことが無いので、軟弱な若者とはそもそも普段の体の使い方からして違うという事だろう。
【ババヘラ -Wikipedia】
https://ja.wikipedia.org/wiki/ババヘラ
※3^
秋田は東北でも北の方にあり、言わずと知れた豪雪地帯なので夏は比較的涼しいのでは? と思われるかもしれないがそんな事は全く無い。冬はドッカリ雪が降るし夏は死ぬほど暑い、という地獄のような場所がここ秋田なのだ。
※4^
“県の人口減少率はマイナス1.30%(2016年、総務省まとめ)で、4年連続トップ。国立社会保障・人口問題研究所が公表した県の将来人口は2040年には70万人を下回る見通し。有識者会議「日本創成会議」は14年、大潟村を除く24市町村を「消滅可能性都市」と指摘している”
【秋田県 人口100万人割れ 減少率4年連続トップ】(毎日新聞 2017年4月21日)