
遠目には現代的でしっかりとした造りに見えた建物は、実は隣にある新店舗の方だった。今回探索する旧店舗の方は骨組みの木材もガッタガタ、壁材には土が使われていてひび割れがひどいなど、かなり年季の入った物件だ。土壁の家なんか建てようと思ったら、現代ではむしろ高くつくんじゃないだろうか。
そして軒下にこんな柄の長い柄杓を置いておく必要性すら現代っ子の私には分からない。肥溜め用? 用水路のヘドロ取り?

家人が居なくなって久しいようで、雨どいには地衣類やシダ植物がこぼれんばかりに溢れかえっている。共に乾燥に弱い植物なのでこんな高い所に繁茂しているのは意外に思ったが、よく見れば屋根がこうして大好きな雨を勝手にかき集めてくれる上に、日光をいい感じに遮ってくれてもいる。
粗食に耐える彼らにとっては、ここは競合他者も現れない、何もせずニトり倒すには絶好のスキマ的ポジションなのだろう。どうせ諦めても終わらせてもらえない試合ならば、こんな風に私も生きたい。

これは隣にある新店舗の前に設置された自販機であるが、それでも価格がデフォルトで全て100円の時代のものだ。
自販機の缶ジュースの値段は1989年(平成元年)に日本で消費税が初めて導入されて以降しばらく据え置きであったが、3年後の1992年(平成4年)に110円に値上げされた。その後は消費税の増税がある度に段階的に値上げされている。短絡的に考えれば新店舗もその最初の値上げまでには閉鎖し廃墟化したとすることもできる。
しかし経営努力で価格据え置きの自販機もあることなどを考慮すると、このような田舎の古い商店にまで価格改定の波が一斉に訪れたかどうかは、正直微妙なところである。

いよいよ旧店舗の中へと入った。正面の戸棚のガラスが歪に影を反射しているのが分かる。これはガラスの品質が良くないためだが、今こんなガラス板を作る事はむしろ難しく高コストと言われており、廃墟で見かける度にちょっと得した気分になる。

店では釣り用具も販売していたようだ。なるほど、近くに川も流れている。
そして傍にしれっと置かれたわらじを見て「いつの時代だよ……」と現地では思ったものだが、後で調べてみると「渓流釣りでわらじ」というのは現代でも通用する有用な装備らしい。自作する愛好家も多く、市場でも流通しているとのこと。安価な上とにかく滑りにくいらしく、その高い性能にあやかって受験生用のわらじストラップを製作している人もいるとかいないとか。

お馴染みの赤地に白抜きの「たばこ」の看板。たばこの文字色は黒だったり白だったりするけれど、この「赤地に白抜き」というのはJISで厳格に定められてるんじゃないかと疑いたくなる程、どこのタバコ屋もデザイン一緒だよね。と言っても街角のたばこ屋が絶滅寸前な昨今、そんなのが分かる人は高齢者かレトロマニア、一部の廃墟マニアくらいか……
(※このデザインは、当時たばこの流通を独占管理していた日本専売公社(今のJT)によるものらしいとコメントを頂きました。)

見慣れない商品ばかりの中、「キャスター」やら「マイルドセブン」やらが見えるとホッとするなw
このうちキャスターの歴史は比較的浅く、発売年は1982年(昭和57年)7月であり、旧店舗は少なくともその時点までは(恐らく新店舗の倉庫としてであろうが)使われていたことになる。一方、マイルドセブン(MILD SEVEN)は2013年(平成25年)2月にメビウス(MEVIUS)ブランドに刷新され、廃墟探訪時で既に現存していない。
ちなみに筆者はタバコを全く吸わないので、マイルドセブンが無くなったことを今知って驚いている。愛煙家であってもなくてもバイク乗りには有名な「マイルドセブンの丘」(バイクと言えば北海道、北海道と言えば富良野・美瑛、そして美瑛のツーリングマップには必ずといって良いほど掲載)も、遠からず「マイ、ルド……セブン……?」扱いになってしまうという事か……少し寂しい気もする。
さて、話が横道に逸れたが、店舗用区画は一旦ここまで。次回更新の記事では店のさらに奥(居住用区画)へと入っていく。
(→「その2:居住用区画」へ続く)
【廃墟Data】
探訪日:2014年3月下旬
状態:中期~末期。崩壊しつつある
所在地:
- (住所)広島県庄原市高町206
- (物件の場所の緯度経度)34°54'12.7"N 133°05'11.6"E
- (アクセス)中国自動車道の庄原ICを降り、高速出口を左折。すぐ先の新庄町交差点を右折して国道183号線を米子・西城方面へと進む。そのまま9km程道なりに進むと、右手に入り口の朽ちかけた廃店舗が見えてくる。途中、高駅方面へと続く道とそうでない道とに国道が分岐し、どちらへ進んでも目的地には着けるが、直進して高駅を経由しない道(バイパス)を通ったほうが早い。平子駅傍の踏み切りまで行ってしまったら、廃墟を行き過ぎているので注意。