(→「勘解造の酪農場 その1」 より)
それでは敷地の最奥の建物に入っていこう。ここにも飼料用タンクがある。
この台車で飼料を運んでいたものと思われるが、ほぼ自然に還ってしまっている。
酪農には様々な薬品が使われる。
動物用の抗生物質や、ビタミン剤などの名前が見える。
現在畜産業の現場では本来は病気の治療のための抗生物質が、病気の予防や成長促進のためにまで使用されていて、事実上の薬物濫用の状態にある。だがその規制の動きも、畜産業界の反発により中々進んでいないようだ。
多くの人はそれら「薬漬け」の肉や乳を摂取する事による直接的なヒトへの健康被害を想像するが、現実としてはそれよりも漫然とした使用による薬剤耐性菌の出現リスクの側面が大きい。
そしてそれは人間社会の中でも起こっており、例えばただの風邪(ウイルス性の上気道炎)に患者が欲しがるからと抗生物質(菌を殺す薬。ウイルスには効かない)を出す医者も全くの同罪である。
この畜舎の端の部屋にはパイプラインミルカーの終端が接続されていた。これでここが牛舎であることが確定した。飼育側の部屋から運ばれた原乳がパイプを伝ってここまで運ばれてくるわけだ。
牛舎の中。ここは「その1」で見た南側の畜舎よりも広く造られている。人の頭の辺りの高さをミルカー用のパイプラインがぐるりと取り囲んでいる。
牛用の給水器が奥までズラリと並ぶ。
柱側のノブを牛が鼻で押すと、新鮮な水がいつでも好きなだけ下を這うパイプから供給される仕組みだ。
外敵や疫病から保護され、エサの心配も一切なく、風雨や寒さからも守られ、乳を提供する限り永遠にニトり倒せるこの環境……。生まれた時からここしか知らなければ不満は感じないのだろうが、外の世界を知っている私に言わせてみれば、ここは自由もなくヒトの為だけに高度に構築された人工生体乳汁生産工場なわけで、ウシ達にとっては一種のディストピアと言えるのかも知れない。
──最も、それらを捨ててまで自由が欲しい、と言う牛がどれだけいるかは甚だ疑問ではあるが。
(勘解造の酪農場 その1~2 了)