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【田老鉱山】緑に包まれた選鉱場

1. 概要

田老鉱山(たろうこうざん)とは、岩手県宮古市にある鉱山の廃墟である。木々の生い茂る選鉱場がとても美しいことでよく知られている(上の写真)。神殿を思わせる荘大な人工物が植物によって侵食されていくその光景はまさに圧巻で、ここは文句無く日本の廃鉱山の代表格と言えよう。

1-2. 田老鉱山の歴史(開鉱~閉山まで)

田老鉱山の開鉱は大正8年(1919)、ラサ工業株式会社がこの地で操業を開始したのが始まりである※1。採掘された鉱石は選鉱場で銅・鉛・亜鉛・硫化鉄鉱などに分けられたのち、ふもとの宮古港から船で関西や九州へと出荷されていった。

昭和14年(1939)、宮古市内に精錬所が完成。これ以降、採れた鉱石のうち銅鉱石はそこへ運ばれて精錬が行われた。

田老鉱山 現役当時の航空写真

(▲ 現役当時の田老鉱山。鉱員住宅が所狭しと並ぶ。 - 田老鉱山資料館(宮古市)より)

鉱山の最盛期には約4000人をようする住宅が立ち並んだ。商店や診療所、郵便局や学校までもが建てられて鉱山に住む人々の生活を支えた。港まではロープウェーで接続され、鉱石や魚などの生鮮食品がその上を行き交った。

元鉱山関係者のひとりは「鉱石がよく売れたから、みんなの羽振りも良かった。気の荒い鉱夫たちのケンカも絶えなかったが、活気のあるいい時代だった」と当時を振り返る※2

その後も戦争による設備の破壊や休山命令、昭和36年(1961)の三陸大火による施設の全焼など、たび重なる苦境を乗り越えて操業を続けた田老鉱山。しかし産出する鉱石の品質低下や安い外国産の鉱石の流入により、昭和46年(1971)閉山した。

1-3. 閉山後

田老鉱山 現在の航空写真

(▲ 前章の写真と同じ場所の、現在の航空写真。鉱員住宅がほとんど消えてしまっているのが分かる。 - GoogleMapより)

閉山後、田老鉱山の敷地は明星大学に払い下げられ、同大学のセミナーハウスや宇宙線観測施設などが設置された。しかし令和3年(2021)現在、それらが利用されている形跡はない。

周囲数キロに渡って人影はまったく見当たらず、かつて4000人もの人口をようした「鉱山の町」の面影はもはや無い。敷地内に今もなお残る巨大な選鉱場跡や、講堂・住宅跡といった廃墟たちだけが、往時の活況を今に伝えている。

2. 内部探索

【田老鉱山】選鉱場 遠景

(▲ 選鉱場 遠景)

【田老鉱山】選鉱場 外観

(▲ 選鉱場 近景)

【田老鉱山】選鉱場 入口

(▲ 選鉱場 入口)

選鉱場内部 1階

(▲ 選鉱場内部 1階)

無機質なコンクリートと有機質な植物との見事な調和

(▲ この廃墟の見所は、物言わぬ無骨なコンクリートと活力に満ち溢れた緑との、その見事な調和にある)

選鉱場内部 1階通路より2階部分を見上げる

(▲ 無機物と有機物、人工物と自然物、非生命と生命──互いに相反する性質の物が、ここでは見事に融け合っている)

選鉱場内部 2階 東側

(▲ 選鉱場内部 2階 東側 夕刻)

選鉱場内部 2階 西側

(▲ 選鉱場内部 2階 西側 夕刻)

倒壊した骨組み

(▲ 倒壊した鉄骨は、そう遠くない将来の選鉱場の運命を暗示する)

黄昏のドラム缶
幻想的な青い水を湛えるシックナー

(▲ 幻想的な青い水を湛えたシックナー(排水の沈殿ろ過装置))

シックナーの梯子に析出した結晶

(▲ シックナーにかかるハシゴには、坑廃水に含まれる成分が析出して厚い結晶になっていた)

(→ に続く)

【廃墟Data】

状態:健在

難易度:★★☆☆☆(低)

駐車場:利便性が一番高いのは講堂の隣の広場(→地図)。この他にも道中のいたるところに路駐できそうなスペースがある。

所在地:

  • (住所)岩手県宮古市田老鈴子沢
  • (物件の場所の緯度経度)39°45'34.2"N 141°55'52.5"E(巨大選鉱場)
  • (アクセス・行き方)東北自動車道「盛岡南」ICを降り、料金所を出てすぐ右「盛岡・宮古」方面へと進む。道なりに県道36号線を東に進んでいくと、「都南大橋東」交差点で国道396号線に一旦合流するので右折して国道に入り、すぐ次の信号を左折して県道36号線に再び入る。県道はそのまま国道106号線(宮古街道)へ接続するので、85km道なりに進む。宮古市内で「築地」交差点で国道45号線にぶつかるのでそこを右折して、さらに16km進む。途中道の駅「たろう」を右手に見て通り過ぎ、登りの左カーブ、S字カーブと続いて次のT字路を左折する(特に目印となるものは無い)。そのまま4kmほど山道を進んでいくと「明星大学田老キャンパス」と書かれたゲートがあり、右手の沢の対岸に巨大な選鉱場が見えてくる。沢を渡る橋はゲートを過ぎて200m程進んだ所にある。