1. 概要
山本園大谷グランドセンターとは、栃木県宇都宮市の北西部に位置する大谷(おおや)町にあったヘルスセンター跡である。ヘルスセンターとは今で言うスーパー銭湯のことであり、決して不健全な施設等のことではない。
大谷町で産出する岩石は柔らかく加工性や耐火性に優れるため、古くは古墳時代から建築材料として用いられてきた。その長大な歴史は地下に巨大な空間を生み出し、「大谷石地下採掘場跡」として現在有料で見学が可能となっている。その荘厳な姿はまさに「地下巨大神殿」と呼ぶにふさわしく、毎年多くの見学者が訪れているほか、映画やドラマのロケにも頻繁に使われている。(→大谷資料館 公式サイト)。
この大谷グランドセンターもその大谷石の歴史をふんだんに意識した建物となっている。浴槽には岩石を多くあしらい、建物自体の設計も大谷の自然石を生かしたデザインである(上の写真でも、岩をあえて撤去せずに建物の一部としているのが見て取れる)。その堂々とした雰囲気に加えて、半円形を取り入れた外観や蔦の絡まる様子から、関西を代表する廃墟である摩耶観光ホテルになぞらえて「栃木のマヤカン」とも評される。
それでは以下にその実力を見ていくとしよう。
2. 実際に足を運んでみた

山側の建物の大部屋。室内に天然の大谷石を自然の状態のまま大胆に取り入れるという非常に意欲的なデザインである。最初これを目にした時は廃墟化した後に崩れ落ちてきた物かと思ったが、部屋の造りを見るとどうも初めからこういう設計だった様子。これは凄い……

川側の建物の男子大浴場。記事冒頭の写真では右下の半円形部分にあたる。
ざわざわと揺れる葉の音色が耳に心地よい……。通り抜ける風は、探索で汗をかいた体をやさしく冷ましてくれる。本当にいつまでもここに居たくなってしまうような場所だった。

一方こちらはあまり見たことが無いもの。この鏡はガラス部分が健在であるのに、鏡面部分だけがまるで溶け落ちるように腐食している。これで火事でもあったというのなら少しは納得がいくのだが、そのような痕跡は見当たらない。時間の経過とは時折かくも不思議な光景を見せてくれる。

隣接の建物には炊事場があったが、驚いたのがこの鉄釜に木の蓋というまるでタイムスリップしてきたかのような調理器具の数々。この羽釜は下の方にガス管が見えるので、さすがに燃料は薪ではなくガスを使っていたようだが……

このお弁当セットも相当な年代物だろう。特にこのお茶の容器、コストをかけてこんなものがわざわざ作られるということはペットボトルが普及する以前の代物だということだ。そんな世界は自分には全く想像できないが、その一端が今まさにここにある。

さて、この廃墟を一通り見てきた感想だが、その歴史の古さや、蔦とコンクリートが織り成す独特の雰囲気は確かにマヤカンに通じるものがあった。しかし「本物」と比べるとやはりどうしても見劣りしてしまうのは致し方あるまい。
これは何も大谷グランドセンターがつまらないと言っているのではない。単純に比較対照が凄すぎるのだ。
「廃墟の女王」とまで称されるマヤカンの素晴らしさの片鱗を、関西まで足を伸ばさずとも感じられるという点だけを見ても、この廃墟は十分に称賛に値すると言えよう。
この廃墟の空撮動画はこちら↓
【廃墟Data】
探訪日:2007年5月上旬 / 2013年9月中旬 / 2019年8月下旬
状態:健在。機械警備導入
所在地:
- (住所)栃木県宇都宮市大谷町1246-30
- (物件の場所の緯度経度)36°35'48.3"N 139°49'06.1"E
- (アクセス・行き方)東北自動車道の鹿沼ICから車で約20分(9km)。県道70号線の大谷交差点から県道188号線(大谷街道)に入って500mほど進むと、県立大谷駐車場の案内板が見えるのでそれを通り過ぎる。そうすると左手に橋が見えてくるが、その3番目を左折して渡る(当事物と思われる錆びた大型の門(下をくぐるタイプ)が目印)。橋を渡った先の真正面に、山に貼り付くようにしてコンクリート造の廃墟が建っている。東北自動車道の宇都宮ICから国道249号線経由で向かう場合はここまで約15分(8km)。
なお、この廃墟は昔から心霊スポットとしても有名であり、その知名度に比例するかのように警備や見回りが厳重なことでも知られている。かつて私がバイクで現地に着いた時などは、先客の肝試しグループが慌てて廃墟から出てくるところで、事情を訊くと「警察のバイクかと思った」とのこと。どうやら心霊以外のことで無駄に驚かせてしまったようだが、当時からそれだけ警戒されていたということだ。そしてその後機械警備が導入された今となっては内部への潜入は無謀であり、公道から外観を眺めるに留めるべきだろう。