1. 概要
栃木県のお化けトンネルで最も有名なのがここ、矢板(やいた)トンネルだ。正式名称を弥五郎坂(やごろうざか)トンネル」といい、こうして閉鎖される前は車なども通れる普通の隧道であった。
しかしその現役の頃からすでにトンネル内では心霊現象が多発していたらしい。車のライトが点滅したり窓が勝手に開くといったようなことから、少しでも霊感体質の人だと車内にいても霊に自分の足を掴まれるのが見えるなど、かなりアグレッシブな霊がこのトンネルには蔓延っていたようだ。
また、少し前までは入口がトタン板で覆われていて、人一人がやっと通れる隙間があるという状態だった。それが現在では写真の通りトタンは全てはがれてしまい、単管パイプの骨組みだけになっている。
ここでは「トタン板の隙間からサラリーマン風の男の幽霊が外を覗いている」というもっぱらの噂だったのだが、トタン板の消滅により死後ふたたび職を失ってしまった彼は、今どこでどうしているのだろうか……
2. 実際に足を運んでみた

矢板市と塩屋町の境となる峠付近。寂しい峠であり、車通りや人通りはまったくない。
峠の東側には写真のようにガードレールが途中で切れている所があり、そこから道路脇の下の方へと矢板トンネルへの道が続いている。

深いやぶをかき分けて、ようやくトンネルの手前まで来た。信じられないだろうが、正面に山のようになった草むらの中に目的のトンネルがある。
同じく夏の時期に行った小川脳病院がここよりも山の中深くにあるにもかかわらず、はっきり獣道ができていて楽々行けたので完全に油断した。この状況を打開するような装備を今日は何ひとつ持ってきていない。
道がまったくないわけではないのだが、行けるか行けないかで言ったらこれはギリギリアウトだと思う。時期的に真夏の探索は無理だと思ったほうが良い。
進むも地獄、戻るも地獄……私はここに来たことを早くも後悔していた。
先ほどの草山をくぐり抜け、どうにかこうにかトンネルの入口までやってきた。ひぐらしの鳴く寂しげな声が辺りに響き渡り、今にも何かが出てきそうな雰囲気だ。

北関東狂……までは読めるが、これは恐らく隣の日光市にあるファミテックの廃墟に落書きされていた「北関東狂走愚連隊」だろう。栃木の(マイナーすぎて)謎の暴走族の足跡が、こんな所にもあった。

ついにトンネルの最深部に到達した。平成10年(1998)にトンネルが閉鎖された後も2004年頃までは反対側まで抜けることができたようだが、ある時からこのようにコンクリートで完全にふさがれてしまった。
どうやら崩落の危険があるためこのような事になったらしい。しかしそれではなぜ入口をふさがずにこんな中途半端なことをしたのだろうか。予算的に片側はトタンでふさぐのが精一杯だったのだろうか。そしてこの向こう側は今どうなっているのだろうか。疑問は尽きない。

ここまで来た証として、一番奥の壁にはやはり落書きしたくなるものなのだろう。もはやいくつの文字が重ねられたかも分からないほど、歴代の落書きが厚く堆積していた。
ちなみにほぼ唯一はっきりと判読可能な右下の総隊長殿は、架空の人物ではなく実在する人の名前である。
(▲ 塚原舜哉氏のインスタグラムより引用。肖像権保護のためモザイク修正済)
気になる総隊長殿の近影がこちら。写真中央の人物がそれである。暴走族もやっていたとのことで、トンネルの落書きはその時代のものだろう。何気に今はフォロワー数万人の人気ツイッタラー・インスタグラマーだ。本人のYoutubeチャンネルも、現在1万人を超える登録者がいる。

これにて矢板トンネルの探索は終了である。こうして見ると美しい山奥の隧道なのだが、いったん奥に踏み出すと先が完全に封鎖されているという閉塞感が非常に重苦しい雰囲気を放つ廃トンネルであった。これは他の心霊スポットにはないここの売りと言っていいだろう。
最後に、記事中では触れる機会が無かった矢板トンネルの歴史について少し紹介する。
記事ではここを車道だと言ったが、元々は鉄道用のトンネルであった。かつては矢板市と日光市との間を東武矢板線という路線が結んでいた。これが昭和34年(1959)に廃線となり、その後車道として転用されたのだ。
そしてさらにその前は、人を運ぶためではなく山から木材や鉱石を運んでくるための森林鉄道だった。駅跡の近くに残る製材所風の建物などが、その当時の面影を今に伝えている。
このような経緯から、ここは廃線探索のメッカでもある。それについてはこちらのページが詳しい(→ 廃線探索 東武矢板線 - 歩鉄の達人)。野暮なので記事中ではあえて触れなかったが、矢板トンネルのコンクリートでふさがれた箇所の向こう側についてもこの「歩鉄の達人」に写真つきで詳しく紹介されている。
また「矢板トンネル」という通り名から矢板市にあると思われがちだが、記事で紹介した側のトンネルの出入口がある場所(実質的に心霊スポットのある場所)はお隣の塩屋町内だ。もしかしたらコンクリートでふさがれるまでは矢板市側の坑口の方が有名で、名前の通りも良いので矢板トンネルと呼ばれるようになったのかもしれない。
【廃墟Data】
状態:健在
所在地:
- (住所)栃木県塩谷郡塩谷町大字喜佐見
- (物件の場所の緯度経度)36°47'55.5"N 139°52'28.4"E
- (アクセス・行き方)東北自動車道「矢板」ICを降り、料金所を出てすぐ分岐を左「矢板」方面へと進む。その先の十字路を左折して県道30号線を北に向かって進む。5kmほど進むと国道461号線と交差するので、そこを左折して「日光・鬼怒川」方面へと入る。そのまま国道を5kmほど進むと左手にドライブインが見えてくるのでその角を右折(株式会社ヤイタ工業 本社工場やラブホテル「ヴァンセンヌ」の案内板がある)。800m先で三叉路にぶつかるので中央の道に入る。そこから400m進んで峠を越えて下ったあたりに、矢板トンネルへと続く獣道の始点であるガードレールの切れ目が右手に見えてくる。