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アフリカケンネル【内部探索】

1. 概要

アフリカケンネルは、1993年に発生した「埼玉愛犬家連続殺人事件」の舞台となったペットショップの廃墟である。被害者は経営者所有のガレージ(解体され現存しない)で犬の殺処分用の毒薬を飲まされるなどして殺害された。遺体はその後共犯者である山崎永幸の自宅に運ばれてバラバラに解体されたうえで、山林に遺棄された※1という。

主犯の関根げん(当時53歳)はブリーダーとしては優秀だったが、ヤクザと繋がりがあったほか、詐欺的な商売を繰り返して顧客とたびたびトラブルになっていた※2。この事件以前にも関根の周辺では彼にとって都合の悪い人物が次々と姿を消して※3おり、裁判で立件された被害者は4名であるものの実際には30名以上にのぼる※4ともされている。

事件後の現在は廃墟となったアフリカケンネル──その心霊的な噂としては、いまだ知られていない犠牲者たちの霊(関根いわく「透明にした」被害者たち)や動物霊が出る※5などと言われている。事件の内容が非常に陰惨なものであったため、埼玉県内でも指折りの心霊スポットとして現在も恐れられている。

2. 実際に足を運んでみた

畑の中にぽつんとあるアフリカケンネル

畑の広がるのどかな住宅地──その一角にぽつりとその廃墟はあった。それはまるで周りの家がここを避けているかのような異様な光景だ。

アフリカケンネルの出入り口付近は廃タイヤのバリケードで固く封鎖されている

いったんアフリカケンネルを通り過ぎて反対側に回ってみた。当時の入口のゲートは完全にタイヤのバリケードで塞がれている。

小型犬用のケージが残されているアフリカケンネルの事務所内部

事務所だった建物の中には小型犬用のケージが残されていた。

事務所内に残されていた動物用の10%ブドウ糖液(大塚製薬)の空き瓶

これが殺人に使った毒薬か……! と思ったら違った。ただのブドウ糖だった。

鉄柵越しに見たアフリカケンネルの黄色い畜舎

事務所の方から金網越しに黄色い畜舎を見る。

大型犬用のケージが残されているアフリカケンネルの畜舎内部

黄色い畜舎の内部。大型犬用のケージとその土台のようなものがある。

故・関根死刑囚の書いたと思われるアフリカケンネル6訓。「もう一度点検 1. 犬舎の鍵を忘れるな。1. 犬舎はくさくないか? ゴミはないか? 1. 犬に変わりはないか? 汚れてないか? 1. かゆがらないか? 目ヤニはないか? 1. 食器忘れるな、ゴミを出せ。 1. 今日のことは今日、すぐやれ」

畜舎の壁には故・関根死刑囚の直筆と思われるブリーダー六訓が今も残されていた。

繰り返しになるが、関根はドッグブリーダーとしては非常に優秀な男で、業界でも名の通った人物だった。

シベリアンハスキーを日本に初めて持ち込んだのも彼とされ、ハスキーブームが終わった後は似た犬種である「アラスカンマラミュート」の繁殖を開始。その後ドッグショーでたびたび優勝するなど実績を重ね、業界誌に何度も広告を打つなど販売も手広くやっていたようである。

このため、今日本で飼われているシベリアンハスキーやアラスカンマラミュートの血統書をたどると、必ずどこかでこのアフリカケンネルで飼育された関根の犬にたどりつくと言われる。

アフリカケンネルの畜舎の出入り口付近。「犬」と書かれた看板が落ちている。

だがそういった輝ける実績がある一方で、関根は完全なる人格破綻者──シリアル・キラーであった。

これもよく言われることだが、大企業のCEOなど優秀な人物にはサイコパスが多いという。

「Africa Kennel」と書かれたシベリアンハスキーのシール

「Africa Kennel」と書かれたシベリアンハスキーのシールが、畜舎の出入口の上の方にひっそりと残されていた。まさにこの廃墟を代表する図柄といえる。

アフリカケンネルのログハウス。窓にはシベリアンハスキーのシールが貼られている。

ちなみに本事件で用いられた毒薬は「硝酸ストリキニーネ」という伝統的な毒物で、死の間際に劇的な苦しみをもたらすため、しばしば文学作品や映画などに登場する薬物のひとつである。この当時は動物の殺処分用としてもごくありふれた薬剤だった。

それがこの事件をきっかけにして、一気に規制の方向に動き出す。その後動物の殺処分方法はより穏やかな方法(二酸化炭素を吸引させる)へと移行※6。結果的に関根は毎年何万頭と殺される犬・猫たちを地獄の苦しみから解放したことになる。

アフリカケンネル「今月の奉仕犬 -今が絶好のチャンス-」

いったい何がどうなるか世の中とは分からないものだ。動物愛護を叫ぶ人たちの中には「二酸化炭素は残酷!」などと喧伝して回る者がいるが、そんなものストリキニーネに比べれば遥かにマシである。

筆者も動物実験で不要となったマウスたちを、炭酸ガスを使って自らの手で殺処分したことがある。彼らは本当に眠るように死んでいった(だがこの経験で生物系の研究は無理と悟った)。

動物の殺処分が公衆衛生上避けられない必要悪である以上、そこにもたらした故・関根死刑囚の功績もまた特筆に価すると言えよう。

3. 関連施設の今

本記事で紹介した物件は、いわゆる「万吉まげち犬舎」と呼ばれるもので、主にイヌの繁殖を行なうための施設だった。

事件当時、熊谷市内には他にもアフリカケンネルの関連施設があった。それらのうちいくつかの現在を以下に紹介する。

3-1. ペット販売用の店舗(解体済)

熊谷市の中心部に位置し、ここが犬舎で育てた犬などを販売する窓口になっていた。

現在では建物は解体され、事件当時のものは何も残っていない。跡地はデパートの駐車場として利用されている。

3-2. 江南犬舎

アフリカケンネルには記事で紹介した犬舎の他にも繁殖場があった。万吉に比べてかなり大きな施設であり、ここの建設費の借金返済にきゅうしたことが、関根を詐欺的な商売へ走らせた一因とされている。

事件後建物は人の手へと渡り、筆者がGoogleストリートビューを見た限りでは、今も現役で使われているようである。

今の所有者に迷惑がかかる恐れがあるため、場所や外観などの詳しい情報は伏せさせて頂く。

【廃墟Data】

状態:健在

難易度:★★★☆☆(普通)

駐車場:なし

所在地:

  • (住所)埼玉県熊谷市万吉まげち1308
  • (物件の場所の緯度経度)36°06'56.4"N 139°22'12.6"E
  • (アクセス・行き方)関越自動車道「東松山」ICを降り、料金所を出て分岐を右方向(森林公園・東松山市街・熊谷)へと進む。県道47号線は「滑川中学校(北)」交差点で県道173号線へとそのまま接続する。料金所から8kmほど行った先の信号「土塩」の手前の分岐を左に入り、さらに3kmほど進む。吉岡駐在所を通り過ぎ和田吉野川を渡ってすぐ次のT字路を左折、そして次の十字路も左折すると、右手にアフリカケンネルの廃畜舎が見えてくる。