1. 概要
蓮田の黒い家(落書きの家)は、埼玉県蓮田市にある電波物件。この手の物件ではまず間違いなく一番有名だと言える。SNSの普及以前から2ちゃんねる等でその存在が囁かれ、市販の雑誌にも何度か載ったことのある超有名物件である。
見てのとおり建物の壁という壁は家主の電波なポエムで埋め尽くされており、静かな田舎町に尋常でない空気をまき散らしている。その異様さから地元では名の知れた心霊スポットにもなっている。
しかし一見すると雑多で意味不明な文章も、ていねいに紐解いてゆけば大きな主張は主に2つであることに気がつく。ひとつは「株式投資の失敗(は大株主に対する企業の裏切り行為だ)」というもの。そしてもうひとつは「家主自身の健康問題」である。
以下に詳しく見ていこう。
2. 実際に足を運んでみた

こんな場所にどうやって書いたんだ? というくらい上の方に「紙クズ『拓銀』だけでも配当3000万円、10年で3億円を盗み収入を断つ。山一・相和銀を加えるとばく大な金」などと書かれている。
拓銀とは北海道拓殖銀行の略で、平成9年(1997)に経営破綻した。山一證券も同年11月に、東京相和銀行は平成11年(1999)にそれぞれ経営破綻している。

壁の落書きを総合すると、家主が投資していたのは主に先述の3社のようだが、このうち銀行は2行ともバブル崩壊を契機として潰れている。
全国の廃墟マニアはバブル崩壊には決して足を向けて寝られないものだが、まさかのここもバブル崩壊物件だったとは……

仮に「1200万株の紙くず」というのが正しかったとしよう。これがすべて拓銀の株式だとすると、額面は50円なので、少なくとも6億円以上を失ったことになる。
これで「配当金3000万円」なら利回りは5%。拓銀の配当が当時どのくらいだったかは知らないが、ちょっと高すぎる気がする。
当然株式は額面以上の値で取引されるので、10億円分(利回り3%)は持っていたんじゃなかろうか。そしてそれを一度に失ってしまった。それならまぁ、発狂しても無理はないか……

このやたらと広い敷地に母屋(左)と離れ(右)まであるのは、自分の感覚からいうと相当な金持ちに見える。「田舎の家はこんなもん」と言われればそうなのかも知れないが……
ちなみにこの場所での筆者のお気に入りの落書きは「防火用金魚ブロ」と「Are yu OK or 脳!」である。

敷地内の落書きを総合すると、主な症状は目の不調(めまい・ものが見えない・二重に見える)、そして「体中の骨が曲げられた・切られた・小さくなった」というものだ。
そのため家主は「寝ている間に脳や骨を勝手に手術された」と憤っている。

結論から言おう。家主は統合失調症(精神分裂病)だ。少なくともその疑いはきわめて強い。
しかしだからといって、これらを単に「妄想」で片付けて良いという話にはならない。なぜなら当の本人にとってはそれこそが「現実」そのものに他ならないからだ。
つまり世界を認識する自分という装置そのものが壊れていて世界がバグって見えているのに、本人だけがその事にどうやっても気が付けないのだ(なぜならそれを認識する装置自体が壊れているから)。これは本当に恐ろしいことである。

特に目の訴えは詐病でもなんでもなく、本当に出ている症状だと思われる。それを本人なりに納得のいく原因を導き出した結果が「勝手な手術」だったのだ。そしてこれは人によって「毒電波」だったり「組織の陰謀」だったりする。
はたから見れば妄想でしかないことに怒り狂い、家じゅうをこんなにしてしまう。ろくに治療薬がなかった昔、こういう患者を閉じ込めておくための小川脳病院(茨城県の廃墟)の役割は決して小さくなかったんだな、と思わずにはどうしてもいられない。

しかし撮影をしていて、先ほどからひとつ気になることがある。2階のこの閉め切った部屋から、ラジオの音が聞こえ始めてきたような気がするのだ。
向かいの道路まで聞こえてくるなんて部屋の中はすごい爆音のはずだけど……まさか私も幻聴……?
【廃墟Data】
状態:健在・中に住人がいる
難易度:★★★☆☆(普通) 敷地内を見たい場合は、家主に取材許可を取ることも可能
駐車場:なし
所在地:
- (住所)埼玉県蓮田市上平野837-1
- (物件の場所の緯度経度)36°01'30.8"N 139°36'51.5"E
- (アクセス・行き方)
【公共交通機関】JR宇都宮線「蓮田」駅西口より、「菖蒲車庫」行きのバスで約13分(18駅)。「上平野」バス停で下車して、目の前に本物件がある。
【自家用車】圏央道「白岡菖蒲」ICより、国道122号線経由で約11分(5km)
料金所を出てから次の十字路を右折して、国道122号線を「川口・蓮田」方面へと入る。そのまま2kmほど進むと「根金」交差点で県道88号線と接続するので、右折して「伊奈」方面へと入る。850m先の「井沼」交差点を右折して、県道77号線に入る。そこから約1.2kmほど進むと、右手に黒い家の電波落書き群が見えてくる。