1. 概要
世界平和大観音は兵庫県の淡路島にある観光複合施設の廃墟。正式名称を「豊清山平和観音寺」という。昭和57年(1982)に建立された巨大観音像は台座部分を含め全高100メートルにもなり、当時は世界最大の仏像として注目を集めた。
昭和52年(1977)のオープン当初はそこそこの賑わいを見せたものの、観音像の完成から6年後の昭和63年(1988)にオーナーである奥内豊吉氏が死去。その後妻が経営を引き継ぐも、その妻も平成18年(2006)に亡くなった※1。それ以降ここは廃墟になっている。
展望台が首を固定するギプスのようにも見えることから「むち打ち観音」の異名を持ち、廃墟化後もシュールなB級スポットとして親しまれていた。また、建物内部の仏像群や地下のトイレなどが不気味なことから、心霊スポットとしても知られていたようだ。
しかし令和2年(2020)2月、世界平和大観音像の展望台から男性が飛び降り自殺する事件が発生※2。これが決定打となり同年3月に同施設は国有化され、観音像とその他周辺施設は2022年度までに解体・撤去される方針となった※3。
(※ 追記:2021年6月中旬からの解体が具体的に決まりました。詳しくは後述。)
2. 実際に足を運んでみた

朝日を浴びて燦然と輝く世界平和大観音像。手前の家々と比べるとその巨大さがうかがい知れる。
営業当時は観音像の首付近にある展望台までエレベーターを使って上ることができたほか、足元の丸い台座部分にはレストランなど関連施設が入っていた。

正門前までやってきた。手前に設置してある案内の石版によれば、ここには様々なアトラクション(とあえて言う。理由は後述)があったらしい。
しかし「四国88ヶ所霊場」や「開運七福神霊場」あたりはいいとして、「交通博物館」に「奥内近代絵画美術館」「陶芸・民俗博物館」果ては「時計博物館」なんてものまで、実にてんこ盛りの内容だ(これらはすべてオーナーの奥内氏の趣味だったらしい)。
だが実は、てんこ盛りなのは館内のアトラクションだけではないのだ。それは……

この情報量の多さ。例のアスキーアート※4を連想させる。
ちなみに右手にある三角屋根のレストランの柱は古代ギリシア式であり、本当にアメリカなのか日本なのか中国なのかヨーロッパなのか、はっきりしてほしい🤣

チケット売り場の説明板によれば「美術鑑賞と宗教とが一体となった世界平和大観音像」とのこと。確かに美術と宗教は通じるところはあるが……。
ピカソやルノワールなど300点ほどの絵画を展示していたそうだが、さすがに全てレプリカであろう。
3. 観音像の内部へ潜入

さて、それではいよいよ観音像の台座内へと潜入する。1階には、赤い木の箱に納められた種々の観音様が所狭しと並んでいた。
付属の説明版によればこれは「十二支御守本尊」というもので、それぞれの観音様には対応する干支が割り当てられている。自分の生まれ年の観音様の前に立ち、賽銭を入れて開運厄除を祈願するものらしい。

水子(亡くなった胎児や新生児)を供養するお地蔵様も大量に残されていた。ひとつひとつが小指から親指サイズの可愛いものである。
しかし気になるのは、これらはどれも裏側に番号と名前、没年月日が書かれており、明らかに在庫のストックではない(使用済み)という点だ。

案内板によれば水子は「永代供養」とのことだが……ここは「豊清山」などと、さもいっぱしの宗派のような山号を名乗っておきながら、どうも宗教法人としての法人格すら得ていなかったらしい。要するにここは宗教施設っぽいだけのただのテーマパークだったということだ。
そのため、あの水子地蔵も閉鎖した時に他のお寺さんへ移されることなくそのまま放置されたのだろう(同門の寺が存在しない)。さすがにこれをテーマパークの「アトラクション」にしてはいけなかったと思う。

従業員控室。円形廃墟ホテル「エノモト」でもそうだったが、こういう丸い建物は外見がオシャレでも実用性はないに等しい。だがここはあくまで「観音像の台座」なので、デザイン優先になるのは仕方がないだろう。
4. 観音像の解体に向けて
大阪の小さな商店から始め、そこから不動産業へ舵を切って一代で財を成した奥内豊吉氏──彼が自身の故郷である淡路島に飾ったのは、錦ではなく巨大な観音像であった。
その後観音像は廃墟となり、近年では外壁の一部が崩落するなど安全性を不安視する声が高くなっていた。そのためついには「迷惑観音」とまで地元民に呼ばれる始末であった。
奥内氏の遺族も現状には心を痛めており、ふるさと納税という形で淡路市に毎年寄付をし続けているという。予定されている観音像の解体工事では、その事業費の一部として遺族の納めた税金が充てられるとのことだ。
その後、2021年6月中旬からの工事開始が具体的に決まった。解体費用は8億8千万円。観音像本体の解体は9月ごろから始め、最終的な工事完了は2023年2月ごろになるとのこと※5。
この廃墟の空撮動画はこちら↓
【廃墟Data】
状態:健在 国有地 2022年度までに解体予定
難易度:★★☆☆☆(低) ※解体工事の話が無かった当時のもの
駐車場:旧参道の始点付近に、かつての駐車場と思しきスペースがある(地図:34°30'10.7"N 134°58'40.4"E)
所在地:
- (住所)兵庫県淡路市釜口
- (物件の場所の緯度経度)34°30'10.5"N 134°58'37.0"E
- (アクセス・行き方)神戸淡路鳴門自動車道「東浦」ICを降り、高速出口のT字路を左折して県道460号線に入る。すぐ先の「浦」交差点を右折して国道28号線を「洲本・志筑」方面に進む。そのまま4kmほど進むと右手に世界平和大観音像の白い巨体が見えてくる。