1. 概要・歴史
旧和賀川水力発電所は岩手県北上市にある発電所の廃墟である。ステンドグラスで飾られた神殿を思わせるような厳かな佇まいから、国内でも指折りの美しい廃墟に数えられる。
ここはかつて、和賀川の大荒沢ダムから水を引いて発電していた水力発電所であった。稼動開始は昭和15年(1940)と、当時はまだ太平洋戦争が始まる前のことである。
しかし昭和39年(1964)、さらに大型の湯田ダムが完成すると大荒沢ダムは錦秋湖の下へと沈むことになる。旧和賀川水力発電所は水没だけは免れたものの、その機能を完全に喪失した。そして発電機は撤去され取水管も切断されたうえで、半世紀以上もの長きに渡り放棄されている。
なお、この廃墟はその美しさばかりでなく、たどり着くのがとても大変なことでも有名である。広見小学校やかつての軍艦島とはまた違った苦労を強いられ、到達の難しさでも日本屈指といえよう。実際の詳しい行き方やアクセス方法については、本記事の後半にて地図付きで紹介する。
2. 内部探索

部屋の奥へと進み、奥側の穴の方から来た方を振り返って撮った一枚。写真奥にはこの部屋へ下りるために使った階段が見えている。
このように穴は2つあるので、発電機は2基備えられていたはずだ。当時の発電能力は1万5500キロワットと、水力発電所としてはかなり小規模なものだった。

部屋の壁際には切断された導水管がぽっかりと穴を開けていた。ダムから送られてきた高圧の水は、ここを通ってタービンまで運ばれた。
この管の先がどうなっているのかは非常に気になるところだ。しかし今回は単独行な上ロクな装備をもってきておらず、いったん降りたが最後、二度と戻ってこれなさそうなので泣く泣くあきらめた。

機材があらかた撤去された今、建物内に残る当時のほぼ唯一の遺構。変電用の設備だろうか? 片側だけ崩れ落ちかけていて、エグザイルのChoo Choo TRAINみたくなってしまっている(ロールダンスと言うらしい)。
3. 行き方・アクセス方法

(▲ 国土地理院「北上市和賀町仙人」付近の地図データを元にブログ筆者が作成)
旧和賀川水力発電所は行くのにとても苦労する廃墟なので、以下にアクセスの方法を少し補足しておく。行くには大きく分けて、川越えのルートと山越えのルートの2種類が存在するが、どちらも一長一短である。

川越え・山越えどちらのルートでもここが出発の起点となる。写真で見えているコンクリートの構造物は和賀川を渡していた索道(ロープウェイ)の基礎だと思われる。先ほどの地図にも記載はあるが、今では索道そのものは失われてしまっている。

和賀川との合流地点付近まで下っていくと、川のすぐ向こう側に発電所の廃墟が見えてくる。時期によっては水量がとんでもないことになるらしいが、この時は見ての通りまったく大したことなく、一番深いところでもヒザくらいまでであった。
がしかし、この時実はそれとは別のある重大な問題が発生していた。とにかく、靴を脱いでここを渡ろうとした筆者がまず思ったことは「水冷方式って凄いんだなあ」という事だ(筆者のバイクは空冷式)。
こんな凍ってもいない秋口の川でこれなんだからタイタニック号の乗客ってやっぱり助からないな、と身を持って感じることができた。

「白鷺鉱山遭難者供養塔」とある。日付は昭和20年(1945)3月。近隣の和賀仙人鉱山とはまた別の鉱山らしいが、詳細不明。
まあ、こんな山の中じゃあ遭難もやむなしだろう。まるで自分の行く末を暗示しているかのようで若干不安になるが……

とつぜん行く手に墓地が現れたりもした。墓石の日付は寛政12年(1800)や享和2年(1802)である。ここに来るまでにはもう道なんかほとんどあって無いようなもので「ホントにこっちで合ってんのか……?」とかなり不安になってきていた。

マジでこれ行くのかよwwwww
足から落ちれば死ぬような高さではないが、橋自体がぐねぐねで全く信用できない。それに万が一落ちて怪我でもしたら自力で戻ってくることはまず不可能だろう。そうなって助けでも呼ぼうものなら橋や廃墟が行政に潰されかねず、自分はともかくとして同好の後進に迷惑がかかる。

橋の上から発電所の方角を見る。たとえ無事にこの橋を越えたとしても、今度はこのありえないほど急峻な地形を乗り越えなければならない。そして帰りも当然同じ道を逆側からたどらされることになる。
と、この時点で筆者は山越えのルートをあきらめた。そして再度川越えでアタックすることにして、橋を降りて今まで来た道を引き返していった。

しかしこの山越え、行く意味がまったく無いわけではない。道中には発電所の遺構でもうひとつの目玉であるサージタンクがあり、他にも導水管など大小さまざまな遺構が存在する。
だが川越えルートを取ったとしても、そこへは反対側からもアクセス可能である。増水しすぎて物理的に川を渡れないとかでない限り、あえて山越えを選択する必要性は薄いように思う。
(※ 上の図は国土地理院「北上市和賀町仙人」付近の地図データを元にブログ筆者が作成)
【廃墟Data】
状態:健在
難易度:★★★★☆(高) 到達するまでが大変。発電所内の穴にも注意がいる。
駐車場:なし。ただし旧索道と車道が交わる辺りに、車1台ほどを止められるスペースはある(下記「アクセス・行き方」の最後を参照)。
所在地:
- (住所)岩手県北上市和賀町仙人8地割32-1
- (物件の場所の緯度経度)39°18'41.0"N 140°54'14.6"E
- (アクセス・行き方)JR東日本北上線の和賀仙人駅より徒歩30分(約1.8km・ルート起点まで)
自家用車の場合は、秋田自動車道「北上西」ICより約20分(9.6km・ルート起点まで)
料金所を出て次の交差点「北上西IC」を左折して県道47号線を「国道107号・横手・夏油」方面へと入る。1.2km先で国道107号線と交差するので、左折して「横手・湯田温泉峡」方面へと進む。約6km先、山之神観音の角を右折(和賀仙人駅の青看板が見えたら行き過ぎているので注意)、和賀川を渡る橋を越えて突き当りを左折する。900メートルほど行くと左手のガードレールが切れ、車1台ほどを止められるスペースが見えてくる。そしてちょうどその奥が発電所への渡河ルート(片道約15分)や山越えルート(片道約45分)の起点となっている。