概要
きぬ川館本店とは、栃木県日光市の鬼怒川温泉にあるホテルの廃墟である。鬼怒川沿いに廃墟ホテルが立ち並ぶ壮観な姿は、テレビでも何度も取り上げられるなどして有名だ。そしてその中でも最大の規模を誇るのが、この「きぬ川館本店」である。
創業は昭和17年(1942)と、廃墟ホテル群の中では2番目に古い。その後何度も増改築を繰り返して、今の巨大で圧倒的な姿となった。しかしその巨額の投資がアダとなり、平成11年(1999)に倒産。負債総額は30億円を超えるという。
このホテルでは倒産直前、まだ営業していたのに経営者が従業員を残して夜逃げしたエピソードがよく知られている。置き去りにされたスタッフ達はその後、予約の入っていた宿泊客のために何とか最後まで自転車操業を続けたという(受け取った宿泊代をそのまま翌日の食材の購入費に充てるなど)。
なお、逃亡したホテルの所有者は令和4年(2022)現在も行方不明のままだ。このことが、廃墟化して20年以上が経った今も建物が解体できない一因となっている※1。
実際に足を運んでみた

これが「きぬ川館本店」の全景である。見ての通り建物全体が複雑にからみ合った巨大な立体パズルのようで、その姿から「日本の九龍城砦」「陸の軍艦島」などとも称される。

きぬ川館本店の館内地図がこちら。これは道路側から見た図なので、先ほどの全景写真とは左右が逆になっている。
上下左右のみの平面だけを見てもこれだけ入り組んでいるのには本当に驚く。実際にはこれに前後の奥行きが加わって3次元となるので、その絶望感は半端ではない。
客室
温泉施設(かっぱ風呂など)

さて、このホテルで最大の目玉といえば、現役時も廃墟化後も変わらず大小さまざまな温泉施設である。さっそく写真左下に見えているプールだが、これはただのプールではなく温泉を利用した混浴のプールだったらしい。
そのプールから目線をずっと上にやると、取って付けたような小さな茶色い三角屋根の建物が見える(実際、取って付けたのだろう)。実はここも温泉で、有料の貸し切り風呂「見晴風呂」となっている。
そして写真右手にある大きな半円形のガラス張りの部屋が、このホテルの代名詞にもなっている「かっぱ風呂」だ。

かっぱ風呂の下には別の小さなお風呂がある。これを見た当初は「男女入れ替えでかっぱ風呂に入れない時間帯はここを使ったのかな」などと思っていたが、実は全然違った。
なんとあのかっぱ風呂、男性様専用で時間帯による入れ替えすら無かったとのこと。その証拠に、このお風呂の名前は「子宝風呂」。女なんかこの極狭の風呂で十分ってか。マジで終わってる。
これまで全国津々浦々、さまざまな男尊女卑を廃旅館で目にしてきたが、ここまでひどいのは他では記憶にない。男湯に比べてちょっと狭いとか、そういう次元ですらもはやないじゃん……
きぬ川館のカッパ
鹿の剥製
ゲームセンター
ロビー ほか

最後に、ホテルのロビーなどを紹介する。この空撮写真は私の廃墟写真集に載せたものとほぼ同じものだが、「葉っぱでモジャモジャの中が気になる」とイベント会場でサンプルを見た読者さんからリクエストをもらっていたので、今それに応えようと思う。

これまた同じ位置から、部屋の奥の方を見る。雨漏りがひどく天井も床もグチャグチャだ。ここで育つ植物にとってはありがたい恵みの雨だろうが、私にとっては床を踏み抜いて死にかねない呪いの雨である。ここを通り抜けるときが、この廃墟でもっとも緊張した瞬間だった。

モジャモジャのちょうど後ろあたりには麻雀卓が残されていた。これも時代を感じるな……かつてはタバコと同じく、大人の男なら知ってて当たり前みたいな時代もあったそうだが、令和の今ルールを知ってる人って一体どれだけいるんだろうか。
ちなみに筆者は麻雀マンガ(兎と哲也とアカギ)で大体覚えた。
(ロビーの紹介は以上です。)

255号室。写真左手に見えているこの部屋の広縁(旅館の謎スペース)も、先述のヨルシカのパレードのロケ地として使われている。
そしてこの廃墟はやはり雨漏りがひどい。そのおかげでここの広縁には草が茂って良い感じになっているのだが、建物の寿命は急速に縮めてしまう。

とても大きく複雑な廃墟なので探索に時間がかかり、つい長居をしてしまった。空にのぼる月が、廃墟の輪郭を冷たく照らし出している。
川の対岸には、煌々と輝く現役のホテルが見える。その温かな光は、私の立つ廃墟の暗闇をよりいっそう濃く、深くしている。
(「鬼怒川温泉の廃墟ホテル群」より、きぬ川館本店 了)
鬼怒川の各廃墟ホテルの記事一覧
- 元湯 星のや
- きぬ川館本店(かっぱ風呂)※本記事
- 鬼怒川第一ホテル
- 鬼怒川観光ホテル 東館
- 鬼怒川観光ホテル 西館 ※解説のみ
【廃墟Data】
状態:健在
難易度:★★★★☆(高)or 探索不可能? ※2022/3末に入口の封鎖工事を実施
駐車場:鬼怒川戊辰公園付近の無料駐車場を利用(→地図)
所在地:
- (住所)栃木県日光市藤原2番地
- (物件の場所の緯度経度)36°50'11.4"N 139°43'18.1"E
- (アクセス・行き方)
【自家用車】日光宇都宮道路「土沢IC」より、国道121号線経由で約30分(18km)
【公共交通機関】東武鬼怒川線「鬼怒川公園駅」より徒歩約7分(600m)