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ほととぎす旅館

1. 概要

ほととぎす旅館とは、大阪府阪南市の山中渓やまなかだににある温泉旅館の廃墟である。創業は昭和初期と古く、敷地内にはホタルのむ美しい川が流れ、太鼓橋や灯篭とうろうを配した和式の庭園があった。

現在では、大阪でも指折りの心霊スポットとして知られている。

1-1. ほととぎす旅館の歴史

もともとこの山中渓は、江戸時代に宿場町として栄えた場所であった。昭和5年(1930)、ここに鉄道が開通すると、その翌年7月には本旅館が開業した。

最盛期当時の山中渓温泉の案内板の写真

(▲ 山中渓温泉の案内板。右下には5つの温泉宿が名を連ねる - 阪南市公式サイトより引用)

この「ほととぎす旅館」は大当たりし、周辺には後追いの温泉宿が次々と建てられた。最盛期の昭和30年代(1960年前後)には「元禄」「山中荘」「つるのや」「阪和館」など5つの宿が狭い渓谷内にひしめいた。

この頃は休日ともなれば、最寄り駅に臨時の直通列車が運行されるほどの賑わいを見せたという。繁栄の絶頂にあった山中渓は「大阪の奥座敷」とまで称された。

昔の「ほととぎす旅館」と「阪和館」の前の道路の写真

(▲ ありし日の温泉街道。この道路の拡張工事のため左の阪和館は廃業した - 阪南市公式サイトより引用)

しかし、次第に温泉客の主な移動手段は電車から観光バスへと移っていった。土地が狭くその変化にうまく対応できなかったことに加えて、施設の老朽化などが重なり、山中渓の旅館は徐々に時代遅れのものになっていった。

そして高速道路の建設や道路の拡張工事などを理由に、温泉宿が次々と廃業。最終的に旅館はすべて無くなり、山中渓温泉そのものがこの世から完全に消滅した。

現在、廃墟となったほととぎす旅館を管理しているのは(株)だん建築計画事務所であり、コスプレイベントなどに活用されている。

1-2. ほととぎす旅館の心霊現象

白い和装姿の女性の霊のイメージ画像

また、ほととぎす旅館は心霊スポットとしても有名で、ネット上にはさまざまな体験談が投稿されている。

最も言われているのは「白い服を着た女性の霊が出る」というもの。本館の大浴場には白い和装姿の女性の霊が出ると言われ、基本的にはこれと同一視されているようだ。

他には浮遊する火の玉などのうわさもある。しかしここは夏場にホタルが見られるので、それと見間違えたのではないかとも言われている。

2. 実際に行ってみた

ほととぎす旅館の純和風の門扉とささやき橋

ほととぎす旅館のある森の中へと入っていくと、この純和風の門扉もんぴと「ささやき橋」が見えてくる。

「山中渓温泉」「天然鑛泉 旅館 ほととぎす」と書かれた当時のパンフレット

(▲ 山中渓温泉 旅館ほととぎすのパンフレット - aucfan.com アーカイブより引用)

これは現役当時のパンフレットだが、あの橋は本来このような朱塗りの橋だったと言われている。この美しい欄干は今ではすべて失われ、コンクリートの板切れをただ渡したような見た目になってしまっている。

ほととぎす旅館の和式庭園

ささやき橋を渡ると、木々や灯篭とうろうを配した和風の庭園が出迎えてくれる。

この辺りはホタルが棲むほど空気と水がきれいな場所なので、心霊スポットにはあるまじき雰囲気の良さだ。こうして庭園を歩くのもすこぶる気持ちが良い。

ほととぎす旅館の目の前の石のゲート

旅館の目の前には、天然石を使ったトンネルがある。

正面入口側から見た、ほととぎす旅館の外観

それをくぐると、旅館の入口が見えてくる。向かって右側の壁の、何か和風の付属棟を取り壊したような跡は、ほとどぎす旅館本館の特徴である。

ほととぎす旅館の本館1階エントランス内

入口から入ってすぐのところ。床はタイル張りで、まさかの西洋風な造り。

和風の中庭を望む

しかし一歩奥に踏み込むと、純和風な雰囲気に包まれる。

ほととぎす旅館の建物内に作られた和式の中庭

廃墟になっても美しい、和式の中庭。

ボロボロに朽ち果てたつり橋と対岸の廃墟

本館から、そばを流れる川の方を見る。つり橋はかなりワイルドなことになっていて、向こう岸に見える建物もほぼ崩壊している。

向こう岸のボロボロの廃墟(クローズアップ)

同じ建物をもう少しアップで。もはや壁だけになっていて見た目が非常にシュールだ。北海道だと雪の重みでこうなってしまう廃墟は多いが、大阪では珍しいのではないだろうか。

山中川の上に本館から伸びている渡り廊下

もう少し奥に進むと、建物から渡り廊下が伸びているのが見える。

渡り廊下の内部

渡り廊下の内部。ひし形に配された照明がオシャレだ。

対岸に見える別の共同浴場跡

渡り廊下からは対岸の別棟が見える。あそこは大浴場だったようだ。

ほととぎす旅館の本館大浴場

一方こちらは本館内の大浴場。天然石を大胆にあしらった和風な造りだが、床の一部はタイル張りとなっている。

大浴場の床のタイル

目の細かい床のタイル。時代を感じるが、当時としてはこのスタイルがモダンだったのだろう。

大浴場内の龍の彫刻

見事な龍の彫刻が配されるなど、浴槽の装飾も手が込んでいる。

脱衣所のガラス窓

脱衣所のガラス窓。廃墟の暗闇に外界の色とりどりの光がきらめいて美しい。

本館内脱衣所

床に落ちている脱衣カゴが、プラスチックではなく天然のつるで編まれたものなのが雰囲気にマッチしていてとても良い。

ほととぎす旅館の本館の廊下

さらに建物の奥へと進む。

ほととぎす旅館のすぐそばを掠めるようにして走る阪和線の車両

建物のすぐそばをかすめるようにして電車が走っている。川の流れる音以外には無音の世界に急に来たので、ちょっとビックリした。

本館大浴場を建物の外側から見たところ

本館を抜けて建物の向こう側まで来た。写真中央には先ほど立ち寄ってきた本館の大浴場が見える。それにしても、まだ建っているのが不思議なくらいボロボロだ。

竹竿と鉄筋を針金で十字に固定して作られた建物の骨組み

なにしろ建材にはこのように竹をそのまま使うという男っぷりなので、川の側なこともあって湿気で傷みやすいのだろう。竹は強度自体はあるが、カビたり割れたりしやすい。

ほととぎす旅館の本館から森の奥へと伸びる道

本館を通り過ぎ、さらに敷地の奥へと進んでいく。するとその先にはさらに別の建物が見えてきた。

ほととぎす旅館の本館の奥にある別館

こちらもなかなかの崩壊具合だ。中に踏み入ることはできないだろう。

意匠が凝らされた窓枠

オシャレな窓枠。ちゃんと雰囲気作りを重視して造られた建物だったことがうかがえる。

入口とは反対側から見たほととぎす旅館の外観

その先に建物はなさそうだったので引き返し、本館の方まで戻ってきた。全体的になかなか雰囲気のある廃墟で、夜は和風ホラーチックになる良質の心霊スポットなんだろうな、という印象だった。

【廃墟Data】

状態:管理物件

難易度:★★★☆☆(普通)

駐車場:なし。路駐するしかないが、土日祝の8~18時は周辺の道路が駐車禁止なので注意。

所在地:

  • (住所)大阪府阪南市山中渓1250
  • (物件の場所の緯度経度)34°19'21.2"N 135°16'09.5"E
  • (アクセス・行き方)
    【自家用車】阪和自動車道「阪南IC」より、府道64号線経由で約5分(4.5km)。
    【公共交通機関】JR阪和線「山中渓駅」より、徒歩約5分(400m)。
    駅舎を出てすぐ右に進む。そのまま府道64号線(和歌山貝塚線)を南に進んでいくと、3~4分で「レオメンテナンス」のガレージに差し掛かる。そのすぐ先の右手に(株)壇建築計画事務所の看板があり、その看板の横をすり抜けるようにして森へと入っていくと、川の向こうに潰れた旅館の姿が見えてくる。また別の入り方として、わんぱく王国の第3駐車場(→地図)を通り抜けて行くルートもある。