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ブログ管理人の心霊小噺(こばなし)

はじめに

廃墟を趣味にしていると公言すると、必ずと言っていいほど聞かれることがある。つまるところ「今までに霊を見たか?」というようなことだ。

このブログの読者の方ならすでによくご存じのこととは思うが、私には霊感がまるでない。むしろそれを武器に各地の廃墟を巡って写真を撮っているわけで、多少なりとも霊感があったらとても撮影どころではないだろう。

しかしそんな私でも、さすがに15年以上も廃墟に通い続けていれば、妙なことのひとつやふたつは起こる。長らく続いた当ブログでの心霊スポットの紹介もそろそろひと区切りつきそう(その後、心スポ以外の廃墟の紹介がしばらく続く)なので、この機会にそれらの体験をまとめて紹介したい。

「すごい、6つもある!」と思われるかもしれないが、余裕で1000回以上は廃墟に足を運んだうえでの6回なので、確実に少ない方だろう。

しかもこのうち本物っぽいのは1番だけ。他は当時の状況などから「見間違い」「霊じゃなくて、そういうオッサンが本当にいた」などと自分の中では結論が出ている。しかし読者の皆さまも同じように感じるかどうかは、やはり人それぞれ違う受け取り方があるように思う。

また、こういう心霊系の話では場所を伏せるのがお約束らしいので、すでに記事で公表してしまっている1と2を除きここでもそうしている。

しかしここでの話は、これもお約束の「知り合いの話、○○で伝わる話」や「匿名の投稿」などではなく、すべて本ブログ管理人である私自身の実体験なので、その現場となった廃墟を知る人が読めばどこの廃墟かは簡単に特定できてしまうだろう。

1. 御宿町火葬場の心霊写真

(▲ 人生初の心霊写真らしきものが撮れた衝撃を語るツイート - 筆者Twitterより)

霊感皆無の筆者にとって、ほぼ唯一にして最大の心霊現象らしきものと呼べるのがこれ。現地での強烈な「なにか嫌な感じ」と、その答え合わせかのような心霊写真がセットになった事件。

詳しくは当時の記事にすべて書いてあるので、そちらを見てほしい。

・ 記事リンク:【御宿町火葬場】窓ガラスに映り込む男性の霊

2. 17つの家での黒い気配

17つの家の航空写真

(▲ 廃墟「17つの家」の末期の航空写真 - GoogleMapより)

今はもう解体されて無くなってしまっているが、福島県の安達太良あだたら山のすそ野に「17つの家」と呼ばれる廃墟群が昔あった。

どこかの不動産会社のモデルハウスだったとも言われているが、「なぜこんな山の中に?」と誰もが首をかしげたくなるほどの寂しい場所だ。そんなところに突如として整然と区画分けされた新築の一軒家がいくつも現れ、しかもそれらがすべて廃墟となって密集しているさまは、なんとも奇妙な光景だった。

さて、この廃墟は過去にも記事にした「横向温泉ロッジ(下の写真)」の次に向かった物件であった。

横向温泉ロッジ_外観

写真からも分かるとおり、ロッジにいる時点ですでに夕方を通り越して夜になりかけていた。なので17つの家に着く頃には、辺りはすっかり真っ暗になっていた。

ならばせめて星と一緒に撮るか、と三脚を抱えてバイクを離れ、17つの家へとつながる道に入った時だった。道の小さなゲートをまたいだ瞬間、あきらかに周りの空気が変わった。

ついさっきまで全然何ともなかったのに、これはおかしい。私は立ち止まって暗闇に耳をそばだてる。だが特に変わった様子はない。

なので気を取り直して奥へと進んでいったが、ますますその変な気配は増していく。そして入口から3~40メートル進んだところで、私はまったく動けなくなってしまった。

「熊」のイメージ画像

表現しにくいのだが、何というか「山道で熊に出会ってしまった」ような感覚があった。しかしもちろん、そんな動物の姿はない。そして相手の正体がわからないからなのか何なのか、とにかく気持ちが悪い。

そして実はこの時、私にはある確信があった。これは風のせいだ、と。この日は風が強く、頭上では星の光を遮るように木の枝の黒いシルエットがざわざわとせわしなく揺れている。

その複雑な音が、闇に潜む正体不明の気配となって私の耳に感ぜられるのだろう。──深いため息をひとつついて、私は歩を進めようとする。が、足は動かない。もはや理屈ではなかった。

「逃走」のイメージ画像

それから私は周囲を警戒しながら、少しずつ後ずさっていった。すぐにきびすを返して走って逃げなかったのは、警戒を解いて目を離したらその隙に「やられる」と思ったからだ。

なんとか入口まで生還して、バイクまで駆け寄る私。ヘルメットを被ってエンジンをかけた時は本当に安心した。

この日、ここでは何か強い心霊現象が実は起きていたのかもしれないが、結局私は写真すら1枚も撮らずに逃げたので、御宿町火葬場のような後日の検証もできなくなってしまった。そしてあれ以来この場所には近づいてもいないので、真相は文字通り闇の中だ。

3. S屋のこけし人形

廃墟ホテルS屋のエレベーター前

(▲ 廃墟旅館「S屋」1階エレベーター前)

I県のとある古い温泉街に、S屋という廃墟旅館がある。ここは増改築を繰り返したためか内部が複雑怪奇なことになっていて、建物自体がかなり不気味な雰囲気を漂わせていた。

廃墟ホテルS屋で開催予定だった心霊イベントの告知チラシ

(▲ この廃墟で開催予定だった心霊イベントの告知チラシ)

逆にそれを生かして、2019年には公式で心霊探検イベントが開催される(も近隣住民の反対で中止になる)ほどの物件だった。なのでここは私も楽しみにしていた廃墟だった。

廃墟ホテルS屋の廊下

で、入り組んだ造りに悪戦苦闘しながらも各部屋の探索を続けていた時のこと。ある階の廊下の突きあたりの中央に20cmくらいのコケシ人形がこちらの方を向いて置かれているのに気がついた(※上の写真はそれとは別の廊下)

不自然だとは思いつつも、その時は特に気にも留めていなかった。ところがそれからしばらくして別の場所の階段を上がろうとしたとき、その階段の踊り場にも全く同じコケシ人形がいてこちらを見下ろしていたのだ。

「こけし」のイメージ画像

さすがにその時は一瞬固まったが、すぐに「誰だよこんなイタズラしたのwww」と人形の横を通り過ぎて、撮影の続きを進めた。その後もその人形が追いかけてくるなんてベタな事はなかったし、特に呪いらしきものにもかかっていない。

しかし今から考えてみると、最初にコケシを見た廊下に戻って確かめてみても損はなかったのにな、と思う。残念ながら今となってはもう確かめようもない。

4. ホテルNの子供の影

廃墟ホテルNの入口前と筆者のバイク

(▲ 廃墟ホテルNの最上階と筆者のバイク)

ここは先ほどのホテルS屋の上を行く、さらに複雑怪奇な構造のホテルだ。崖にへばりつくようにして建ち、道路から普通にホテルに入ると写真の展望台っぽいところに着いて行き止まり。実はそこはホテルの最上階で、本当の入口は崖のずっと下の方にあるという、意味不明な造りをしている。

そんな、T県のホテルNという廃墟を探索していたときのこと。ほとんど崩壊して骨組みだけになっている廃墟に四苦八苦していると、視界の隅に柱の影からこちらをじっと見ている子供のような姿が一瞬見えたような気がした。

ぎょっとしてそちらを振り向くが、もちろんそんなところに誰もいるはずがない。なんだ、と気を取り直して探索をつづけ、その後も特に変わったことはなく撮影を終えた。

「子供の霊」のイメージ画像

ここは心霊スポットとしてT県では非常に有名だとは聞いていたが、その後の調べによると、ここで目撃されているのは大人の女性の霊、もしくはスーツを着た男性の霊であり、子供の霊ではないことが分かった。

驚き加減は先述のコケシ人形よりもはるかに上であった(危うく足を踏み外しかけた)。しかし「報告例のない子供の霊が霊感ゼロの人間に見えた」などというのは、もう完全に何かの見間違いであろう。

またここでは「心霊写真が必ず1枚は撮れる」というのが霊そのものよりも有名なようだ。しかし私が探索した時間はほとんどが日中だったせいか、この日撮影した165枚中それっぽい写真は1枚もなかった。

5. M鉱山での呼び声

廃鉱山Mの遺構とそばを流れるISB川

(▲ 草木に囲まれた廃鉱山Mの遺構と、その前を流れるISB川)

N県の山奥にM鉱山という古い銅山の廃墟がある。廃墟と言っても古すぎてもはや遺跡と化していて、そこに至る道もほとんど消えかけている。そのため廃墟の側を流れるISB川に足を踏み入れるようにしてさかのぼらなければたどり着けないというへき地っぷりであった。

で、どうにかこうにか廃墟へとたどりつく頃には、ほとんど日も暮れかけていた。三脚がないともはや撮影すらままならない暗さで、手早くカメラと三脚の接続を進めていると川の上流の方からかすかに人の声がする。

「○○○○○」

こんな廃墟しか無いような山奥で、最初は聞き間違いかと思った。しかしそれからしばらくしてまた声が聞こえる。

「おーい」

今度は聞き間違いなどではなかった。たしかに初老くらいの男性が誰かを呼ぶ声がする。しかし私には誰かに呼ばれる理由など無いので、そのまま撮影を続けた。すると、また声が。

「おーい」

──声は、だんだんと近づいてくる。それと共に次第に辺りに迫りくる宵闇。こんな真っ暗な時間に、こんな道もないような山の奥底にいるとか頭おかしいんじゃないのか? まったく誰だよ、気が散るな……と完全に自分のことを棚に上げて声の主を非難し始める私。

廃鉱山Mの遺構内部

(▲ M鉱山の遺構内部(30秒露光))

そしてついに三脚を使って30秒露光しても撮影ができなくなるくらい暗くなり、私は撤収の準備を始めた。そしてそれがすべて整ってリュックを背負うか背負わないかした時、

「おーい」

もう声はかなり近づいていた。まるで川向かいの茂みに今いるかのような距離感だ。それを聞いた私は、

「面倒だな」

と思い、懐中電灯をつけて元来たルートをさっさと下っていってしまった。

廃墟探索も初めの数年間は、同業者を見つけるとこちらからフレンドリーに接していって、専用の名刺まで用意していたくらいだった。しかしこの頃になると、もう廃墟で出会う人間などトラブルの元にしかならないので、完全に避けていた頃だった(さすがに今はもう少しマシな対応をする)。

最後の方は声がはっきりと聞こえていたし、当時はその声の主が人間であることを微塵も疑わなかった。だがもし、その声の主と遭遇していたら一体どうなっていたのか……今でもふと考えることがある。

【参考】
※ ちなみに「山の中で人を呼ぶ声がする」という怪談は昔からよくある種類の話らしい。その正体はカッパやカワウソ※1だとされ、岐阜の山村や北海道のアイヌにも似たような伝承※2が残されている。

6. A温泉のキチ○イ男

廃ホテルAの正面出入口

(▲ 廃ホテル「A温泉」の正面出入口付近)

東北地方のA県の県境に、A温泉というホテルの廃墟がある。これは豪雪地帯の建物によくあることだが、出入口の扉が二重になっていて、内側が自動、外側が手動の造りになっている。

私は廃墟に着いてその外側の扉に手をかけたが、鍵が閉まっていてビクともしなかった。それでどこか開いている所はないかと周囲を回ったところ、建物側面の勝手口のようなところが開いていたのでそこから中へと入った。

廃ホテルAの外観

私はまずフロントから撮影を始め、それから客室のある2階へと上っていった。この廃墟はこうした田舎のホテルには珍しく、かなり高層の建物であった。そのため次第にせまり来る日没に、やや焦りを感じていた。

しかしこれはホテルの廃墟にはよくあることだが、2階より上の客室階は基本的にどの階も同じ造りであるため、撮影にそこまで時間はかからなかった。

「夕焼け」のイメージ画像

そしてすべての階の撮影を終え、屋上へと出る。じっとりとかいた汗に吹き抜ける風が心地よい。ここは山の中で川も近くにあるため気温は多少マシであったが、それでも夏の閉め切った廃墟内の探索は辛いものがあった。

すでに太陽は山の向こうへと隠れ、空は真っ赤に染まっている。十分に風に当たり涼を取りながら、さてそろそろ引き上げるか、と思った時だった。そばを走る国道からホテルの駐車場に1台の車が入ってくるのが見えた。

「スーツを着た男性」のイメージ画像

こんな廃墟の駐車場に堂々と車で乗り付ける人間など、どう転んだって私にとっては招かれざる訪問者だ。サッと身をかがめながらその車の様子を観察していると、中からYシャツ・ネクタイ姿の男が一人降りてきた。

その姿からどうやら警備会社の人間ではなさそうだな、とは思ったが、その男はまっすぐ私のいる廃墟の入口へと向かってきた。それで私がこの先の対応などを色々と考えていた矢先、

「ガンガンガンガン!!!」

突然けたたましい音が辺りに鳴り響いた。私は驚いてその音に耳を傾ける。左右の山に反響して分かりづらいが、どうやら廃墟の正面出入口付近からこの音がしているようだ。

「ガコン!!!ガン!ガコォォン!!!」

音はなお続いている。まさかさっきの男が……? それはどうも鍵のかかった扉の取っ手をつかんで無理やりこじ開けようとしているか、扉を蹴りまくっているような音だった。

「動悸」のイメージ画像

(やばいやばいやばい何だ何なんだあいつ?!)

私は風でようやく引いた汗がまたどっと出てくるのを感じた。心臓は早馬のごとく鳴っている。とにかくこの廃墟から脱出しようと、震える手で屋上の扉に手をかけた。

(ないわないわないわ……!)

男が暴れている大音響は廃墟の中にも響いている。私は素早く、しかしなるべく音は立てずに、廃墟内の階段を駆け下りていった。

そしてようやく2階か3階にさしかかった時だった。緊張でしばらく気が付かなかったが、ふいに「あの音」がまったくしていないことに気がついた。

「絶望」のイメージ画像

その瞬間の絶望といったら、もはや言葉にすることなどできない。「奴」を見失った。もうどこにいるかもわからない。このまま1階に降りていったら奴と鉢合わせるかもしれない。かといってこのまま廃墟のどこかの一室で、あのキチ○イが来ないことを祈りながら一晩をやり過ごすか?……ありえない!

立ち止まっていたのは、実際にはほんの一瞬だったと思う。私はそばに落ちていた角材を手に取ると、また忍者のように階段を1階まで駆け抜けていった。

そしてこの廃墟へ入ってきたときの扉(駐車場の目の前)から出る勇気などとてもなかったので、撮影時に見かけていた現役施設のある側(駐車場とは反対側)の扉へと向かっていった。

息を殺し、周囲に「奴」の気配がないことを慎重に確認すると、私は扉を開けて一気に現役施設の方へと走った。角材は途中で投げ捨てた。施設の人に私の姿が不審に思われるかも、などという心配はもはや頭の中には露ほどもなかった。

それから橋を渡って現役施設の出入口付近まで来て、私はようやく落ち着いた。この後は近くの道の駅の空き地にテントを張って野宿する予定だったが、もはやその気力もなかった。私はバイクでふもとの街まで降りていくと、そのままビジネスホテルに宿泊した。


────以上が、この15年間で私が廃墟で体験した「妙なこと」のすべてである。最後の話などは、心霊とはまた別の種類の怖い話だった気がしなくもないが、読者の皆さまがこれから迎えるであろう暑い夏のお供に少しはなっただろうか。