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東濃朝鮮初中級学校

概要

東濃朝鮮初中級学校とは、岐阜県土岐市にある朝鮮学校の廃墟である。平成9~10年(1997~8)にかけて、お隣の愛知県にある朝鮮学校に統合されたため廃校となった。

朝鮮学校とは、北朝鮮の民族教育を行なっている教育機関のことである。授業は原則として朝鮮語で行なわれ、授業内容も北朝鮮独自のものとなっている。英語圏の子供たちが通うインターナショナルスクールの北朝鮮版と考えれば、おおむね間違いではない。

ただし、その成立の経緯ははるかに複雑だ。元々は日本の敗戦後に朝鮮半島へ戻らなかった在日朝鮮人の子弟を教育するための機関だった。その後1950年に勃発した朝鮮戦争の際、朝鮮学校の運営母体は北朝鮮政府を支持し、韓国政府と対立。そして北朝鮮政府は日本の朝鮮学校の支援を始めた。

このような経緯があるので、朝鮮学校で行なわれている教育は韓国のものではなく北朝鮮のものであり、通っている生徒たちも朝鮮半島出身者の子孫ではあるが北朝鮮人というわけではない、というややこしい事になっている。

実際に行ってみた

「東濃朝鮮初中級学校」とハングルで書かれたプレート

校門にはハングルで学校名が書かれている。最初の2文字は日本語の「東濃(とうのう)」の音をハングルで当てたもの(도노)。続く7文字は「朝鮮初中級学校」と書かれており(조선초중급학교)、これは日本の小中学校にあたる。

こういうのを見ると「ああ、ここから先は外国なんだな」としみじみ思う。普通の廃墟探索ではそんなことを感じる機会はないので、新鮮な気分だ。

東濃朝鮮初中級学校の昇降口前

校門を通り抜けて、昇降口の前までやってきた。この廃墟はめずらしい朝鮮学校の廃墟であること以外にも、構造がやたらと複雑なことでも有名だ。

その片鱗がすでにここから見えている。校舎はまるでレゴブロックを適当に積み上げたかのようにデコボコしている。

東濃朝鮮初中級学校の教室内

校舎の中はガランとしていて、どの教室にも机や椅子はほとんど残されていない。

朝鮮学校は日本政府や自治体からの援助が打ち切られつつあり、親玉である北朝鮮本国の経済状況も終わっているので、とにかくお金がない。少しでも経費を節減するために、机などの備品は移転先の学校に持っていったのだろうか。

東濃朝鮮初中級学校の教室の黒板

黒板はさぞハングルだらけなんだろう……と期待していたが、意外にも英語9割・日本語1割という感じ。

「模範」とハングルで書かれた額縁

しかしそこはやはり朝鮮学校、他にもハングルで「模範」と書かれた額縁が教室に残されていた。例の親子の肖像画※1でも飾っていたのだろうか。

「SAMBOSO」という名の健康食品

サンボソ(삼보소)という名前の健康食品の箱が落ちていた。パッケージから察するに、朝鮮人参を配合した滋養強壮剤のようだ。(Made in) PyongYang※2の文字がアツい。

「白頭山麓の山蔘」と書かれたシールの束

近くには他にも「白頭山麓の山蔘」と書かれたシールの束が落ちていた。

白頭山(ペクトゥサン)とは、北朝鮮と中国の国境にある活火山のことだ。日本における富士山のような国を代表する山であり、また朝鮮民族発祥の地として神聖視される霊峰でもある。北朝鮮の公式発表では金正日キムジョンイル元総書記がこの白頭山生まれとされているが、その信ぴょう性は心霊ホテルで語られるオーナーの自殺説以下である。

山蔘(サンサム)とは朝鮮人参のこと。「人参」と名前がついているが野菜のニンジンとは全く別の植物で、滋養強壮に効くことから古くから漢方薬として用いられる。

そして筆者はこのシールを見て、これら健康食品が日本人向けの商品(つまり外貨獲得手段)であることに気がついた。北朝鮮本国が子供たちの健康を想って送った可能性を2ミリ程度は信じていたが、そんなことは全く無かったぜ……

東濃朝鮮初中級学校の複雑な立体構造

さて、東濃朝鮮学校といえば、この意味不明な廊下の立体構造である。

東濃朝鮮初中級学校の入り組んだ階段

本当に見れば見るほどメチャクチャな造りだ。どうしてこうなった?

東濃朝鮮初中級学校の2階から廊下と階段を見渡したところ

同じ場所を2階から見下ろしたところ。

2階から1階へ伸びる階段と1階の教室

う~ん、まるで迷路のようだ……デザイナーの趣味が全開になっただけなんだろうか。実際に使う人のことなどまるで考えられていない。

だがその使う人がいなくなった今改めて見ると、他の学校の廃墟にはない独特の造りなので、探索していてとても面白い。

東濃朝鮮初中級学校の昇降口

学校の昇降口。ここは生徒や来客がまず最初に目にする空間なので、この吹き抜けのインパクトはかなりの好印象だったろう。

やはり使い勝手を大幅に犠牲にしているだけあって、デザインには目を見張るものがある。

東濃朝鮮初中級学校の昇降口2階

同じ吹き抜けを2階から見たところ。無理に吹き抜けを作ったことで、その手前の空間が完全に無駄な謎の回廊になってしまっている。

中二階の教室の内部

気になるので吹き抜けに面した部屋の中にも入ってみた。1階の空間を広く取るために床を浮かせた分だけ左右の天井が低くなっており、とても窮屈に感じる。

しかし部屋の中から外を眺めた時の見た目はごらんの通り悪くない。こちら側が全面ガラス張りになっていることからも、そういった設計意図を感じる。

東濃朝鮮初中級学校の講堂(体育館)

所変わって、こちらは離れの講堂。ミズノの青いボールカゴがあるので体育館としても使われていたようだ。と言っても、この広さだと卓球くらいしかできそうもないが、どうしていたんだろうか……

講堂の舞台裏に放置されていた「彗星」という名の健康枕

舞台裏には「快よい眠をさそう!(原文ママ)」としてイオン健康枕なるものの在庫が放り込まれていた。そしてやはりこれも生徒達のためではなく日本人向けの商品のようだ。

もしかしたら、送る金がないから現物を送って「これで稼いでね!」って事だったのかもしれない。しかし北朝鮮製の製品とか日本人が買うかなぁ……現実はかなり厳しかったのではないかと思う。

【廃墟Data】

状態:健在

難易度:★★★☆☆(普通)

駐車場:仲森公園の公共駐車場を利用(→地図

所在地:

  • (住所)岐阜県土岐市泉町大富939-22
  • (物件の場所の緯度経度)35°22'22.8"N 137°11'09.3"E
  • (アクセス・行き方)
    【自家用車】中央自動車道「土岐IC」より、国道21号線経由で約4分(1.5km)。仲森公園の駐車場からは徒歩10分(700m)ほどで校舎に着く。
    【公共交通機関】JR中央西線「土岐市駅」にて下車、駅より徒歩約22分(1.6km)。