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湯の山温泉の廃墟ホテル群

概要

湯の山温泉とは、三重県菰野こもの町にある温泉地である。熱海や別府のように全国的に名の知られた温泉地ではないが、そのぶん町が歓楽街化されておらず、ゆっくりと温泉を楽しめる落ち着いた雰囲気の温泉街である。

湯の山温泉が広く世に知られるようになったのは、明治維新後に起こった西南戦争がきっかけだと言われている。戦争で傷ついた兵士たちはこの地で療養し、回復して故郷へ帰ると湯の山温泉を絶賛したという。しかし、それでも他の有名温泉地との競争には勝てず、温泉宿が1件だけになってしまった苦難の時期さえあった。

状況が厳しいのは時が令和となった今も変わらず、湯の山温泉には温泉宿の廃墟がかなり目立つ。本記事では、それらの廃墟を有名なものから順に紹介していく。

1. 鶯花おうか荘(鴬花荘)

鶯花荘の外観

「湯の山温泉の廃墟ホテル」と言えばここ。記事トップの写真で左半分を占めていた建物であり、湯の山温泉では最も巨大かつ最も有名な廃墟ホテルである。

このホテルを設計したのは、日本建築家協会の元会長であり世界的にも高い評価を受けた故・坂倉準三氏である。氏はモダニズム建築を数多く手がけ、この鶯花荘もベランダの張り出しの長さが部屋ごとに異なるという面白い外観をしている。

鶯花荘の創業は昭和39年(1964)。地下1階・地上4階建ての本館(上の写真の建物)と、その背後の崖に建つ地上3~7階に相当する別館とが合体した大規模ホテルである。しかしバブル崩壊後にこの種の大型温泉旅館が全国で次々と倒れていった例に漏れず、この鶯花荘も2000年代の前半までに廃業した。

鶯花荘1階のロビー

(▲ 1階ロビー。高名な建築家の設計だけあり、廃墟となってもなお荘厳な雰囲気を漂わせる。)

鶯花荘4階の大宴会場

(▲ 4階大宴会場)

鶯花荘5階の和室

(▲ 5階客室)

鶯花荘7階の大浴場

(▲ 7階大浴場。眼下には山頂へと続く御在所ロープウェーと、遠く菰野の町並みが見える。)


このように素晴らしい廃墟だった鶯花荘だが、令和4年(2022)3月20日に火事で燃えている様子がTwitterに投稿される。地元メディアでもニュースになるなど、ちょっとした騒ぎになった。

この不審火により鶯花荘は上階の大部分を損傷したものの、取り壊されることなく今も黒焦げの痛々しい姿を温泉街にさらしている。

2. 杉屋

杉屋の外観

先述の鶯花荘のはす向かいにある廃墟旅館。この杉屋と鶯花荘が、湯の山の廃ホテルのツートップと言って差し支えない。

杉屋の歴史は鶯花荘よりもはるかに古く、創業は遠く江戸時代の貞享じょうきょう4年(1687)とも言われる※1。しかしこの伝統ある杉屋も、鶯花荘の後を追うようにして廃業。後に残されたのは、その長い歴史の中で増改築を重ねた結果できた迷宮のような廃旅館であった。

杉屋の玄関内

(▲ 正面玄関)

杉屋の客室の広縁から見える眺め

(▲ 客室からの眺め)

南側から見た杉屋の外観

(▲ 鶯花荘側から見た杉屋の外観。後から次々と建物を積み重ねていった様子がうかがえる。)

3. 河鹿かじか

三滝川側から見た河鹿荘の外観

昭和6年(1931)創業の老舗旅館。昭和初期の雰囲気を色濃く残す、和風モダンな見た目が美しい廃旅館である。

同名のホテルが同じ三重県の榊原さかきばら温泉や、石川県の山中温泉、福島県の磐梯熱海ばんだいあたみ温泉、神奈川県の中川温泉などにあり、これら全てが軒並み廃墟であるため非常にまぎらわしい。中にはこれらを混同して解説している廃墟サイトも見受けられるので注意が必要だ。

河鹿荘の2階のアーチと紅葉

(▲ 2階のアーチと紅葉)

山側から見た河鹿荘の外観

(▲ 裏手から見た河鹿荘の外観)

4. ホテル・ブルー

ホテルブルーの外観

温泉街を貫く主要道のすぐ横にあるため、廃墟目的でなく普通に湯の山温泉に車で来ると一番目立つ廃墟がこれである。そのため一般にはよく知られている物件だ。

しかし内部は解体途中で放棄されたような状態であり、いまいち廃墟美には欠ける。「湯の山の幽霊ホテル」の異名を持つが、これといった心霊的ないわくもない。むしろ後述の鶯花荘寮の方が心霊スポットとしては有名である。

ホテルブルーの階段と廊下

崖っぷちに建つホテルにはありがちだが、内部は意味不明なまでに複雑である。階段の左右には廊下が伸びていて、それぞれ別の部屋や区画につながっている。

ホテルブルー5階の裸婦のモザイクアート

このホテルの見どころの一つが、5階の廊下にある裸婦のモザイクアートである。花びらの細かいところまで表現するなど中々凝っている。

5. 鶯花荘寮

鶯花荘寮の外観

この建物は、最初に紹介した廃墟ホテル「鶯花荘」の従業員が住む寮のひとつだった。心霊スポットとしてとても有名であり、立ち入った者は近日中に必ず交通事故にあうともっぱらのうわさである。

この廃墟では平成10年(1998)9月19日に身元不明の50代男性の腐乱死体が見つかっている。発見現場は2階南側の西奥の部屋であった(写真では2階の一番左の部屋にあたる)。

鶯花荘寮には顔がぐちゃぐちゃに潰れた男性の霊が出ると言われており、発見された遺体との関連や交通事故のうわさとの関連がささやかれている。

6. スペシャルサウナ湯の山(解体済)

スペシャルサウナ湯の山の跡地

かつて湯の山温泉に存在した、全国的にも珍しいソープランドの廃墟。記事トップの鶯花荘と並ぶ有名な物件だったが、平成30年(2018)に解体された。上の写真はその解体現場の様子である。

元々は翠峯閣すいほうかくという名の普通の温泉旅館だった。それが廃業した後に、旧ホテルの一部を使って大人向けの性風俗店として生まれ変わったのが本物件であった。

しかしそれもたった数年で廃業してしまったという。その原因は風営法に引っかかったとかではなく、単純に女の子の質があまり良くなくて客足が伸びなかったからだと言われている。

(※ 湯の山温泉の有名廃墟は以上)

7. おみやげの店 杉屋東店

杉屋東店の外観

以下、7番以降は比較的マイナーな廃墟を紹介していく。

この杉屋東店は土産物屋さん兼、茶屋(軽食の食べられる休憩所)だったらしい。先述の廃旅館「杉屋」からは、東ではなくどちらかと言えば北に位置する。名前の由来はこの旅館ではないのだろうか?

店内には使い捨てカメラなどが販売されているのが見える

店の中には今や絶滅危惧種となった使い捨てカメラや「登山記念バッヂ」の貼り紙が見え、とてもノスタルジックな気持ちになる。ポストの上あたりには、湯の山温泉特産の堅焼きせんべい「大石焼」の在庫が積まれている。

8. 翠明すいめい

翠明館の外観

杉屋東店の隣にある廃旅館。令和4年(2022)現在は、喫茶店「Cafe Suimei」として1階部分(フロントの下の階)のみ営業している。

余談ではあるが、この店は湯の山温泉の目玉物件から歩いてすぐの所にあって探索に都合が良いため、筆者は昼休憩を毎回ここで取っている。

9. ペンション きんこんかん

ペンションきんこんかんの外観

これも杉屋東店の隣にある物件。メルヘンチックな見た目通り、ここはカップル向けの宿泊施設だった。しかしこういうのは筆者的には山梨の清里高原にあるイメージで、純和風が似合う湯の山温泉とはあまりマッチしていない気がする。

人形が並んで外を見ているペンションきんこんかんの窓辺

窓からは人形たちが列を成して顔をのぞかせていた。お茶目なオーナーの遊び心を感じる。

10. 一心堂鍼灸しんきゅう治療院

一心堂鍼灸治療院の外観

湯の山温泉の最奥部にある物件。造りから見てここもかつては旅館だったようだが、廃業後に鍼灸師の渡辺氏が居抜きで開業したのが本物件である。

レッドカーペットで壁が鏡張りのド派手な階段

正面入口から入ってすぐ、この鏡張りのド派手な階段が出迎えてくれる。この時はまだここの正体が分かっておらず「もしかしてエッチなお店かな?」などと無駄にドキドキしていた。

一心堂鍼灸治療院の2階待合室

階段を上がってすぐのところ。施術待ちの患者のための待合室だったと思われる。

美女の切り抜きだらけの壁と天井

バックヤードの一部屋。壁と天井が美女の写ったポスターやら切り抜きやらで埋め尽くされている。

院長の渡辺氏は盲学校出身の方だと現地に残された資料から分かったが、「これ絶対バッチリ見えてるだろwww」と内心総ツッコミであった。院長の女好きが高じてのあの内装か、と答え合わせができた瞬間である。

11. どり~む・湯の山

株式会社ティーオーエム どり~む・湯の山 空撮

老人ホームの運営事業を手がける株式会社ティーオーエムの所有物件。名称からしてここも「どり~む」シリーズの老人ホームとして使うつもりだったと思われる。しかし今のところ利用されている様子はない。

どり~む・湯の山の門扉と紅葉

この建物の周りは紅葉がとても綺麗だ。おそらくそれを狙ってわざわざ植樹したものだろう。

12. 民宿 中屋

民宿中屋の看板

ホテルブルーの向かいにある民宿。

民宿中屋のフロント付近

窓からロビーをのぞいてみたが、営業してはいないものの管理はきちんとされているようだ。

13. 廃屋(現・古民家カフェ森の音)

古民家カフェ森の音に改装される前の廃屋

民宿中屋から橋を挟んで反対側にあった廃屋。現在は「古民家カフェ 森の音」という小洒落た喫茶店になっている。

当ブログでは以前に建築途中で廃墟となったホテルが復活した事例を取り上げたが、ここは老朽化で廃墟となった住宅がリノベーションにより復活した事例である。まさかここが再利用されるとは筆者も思っていなかった。よくこの状態から復活させたものだ。

紅葉の名所としての湯の山温泉

湯の山温泉の三嶽寺付近の紅葉

以上で湯の山温泉にある廃墟の紹介を終えるが、この温泉街は紅葉の名所でもある。特に写真の三嶽さんがく寺の辺りと大石公園の辺りは、息を飲むほどの美しさだ。

湯の山温泉へ散策に行くのであれば、紅葉シーズンである11月中旬~下旬がおすすめである。この機会に皆さんもぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

【廃墟Data】

状態:鶯花荘は火災により損傷。スペシャルサウナ湯の山は解体。その他の物件は健在。

難易度:★★★☆☆(普通)

駐車場:「渓流の宿 蔵之助」の有料駐車場を利用(→地図

所在地:

  • (住所)三重県三重郡菰野町菰野8541-16(廃墟旅館「杉屋」)
  • (物件の場所の緯度経度)35°00'55.2"N 136°26'43.9"E(廃墟旅館「杉屋」)
  • (アクセス・行き方)
    【自家用車】新名神高速道路「菰野IC」より、国道477号線経由で約15分(7.7km)
    【公共交通機関】近鉄湯の山線「湯の山温泉駅」より、三重交通「76湯の山線」の湯の山温泉・御在所ロープウェイ行きに乗車。約10分(3駅)後「御在所ロープウェイ駅」にて下車、駅より徒歩10分ほどで湯の山温泉の温泉街へとたどり着く。なお、「鶯花荘寮」のみ温泉街からはやや離れた場所にあるので注意(詳しくは下記の地図を参照)。