概要
ホテル ラ・レインボーとは、岡山県倉敷市にある宿泊施設の廃墟である。昇降式の展望台を併設したユニークなホテルであり、乗客は地上138mの高さから瀬戸内の景色を楽しむことができた。日本のバブル期を代表する遺産として、廃墟マニアには非常に良く知られた存在である。

(▲ ホテル ラ・レインボーと瀬戸大橋。右手にある巨大な塔がホテルの展望台。ここをゴンドラが観覧客を乗せて上下に移動した。)
ホテル ラ・レインボーは、瀬戸大橋とは切っても切れない関係にある。瀬戸大橋は本州と四国を結ぶ初めての陸路として、昭和63年(1988)に建設された。鉄道道路併用橋としては世界一の長さを誇り、当時大々的に報道されたこともあって国民の注目度は非常に高かった。
この瀬戸大橋の開通に合わせてオープンしたのが、展望台つきの巨大ドライブイン「ラ・レインボー」だった。橋を管轄する当時の本四公団は「橋が完成すれば1日4万8000台の車が通過する」と豪語し、それでひと山当てようとした業者が観光客向けの大型施設を次々と周辺に建設した。
しかしフタを開けてみれば見事に大コケ。開通当初は確かに賑わったものの、その熱が冷めれば瀬戸大橋の通行数は1日6000台に過ぎなかった。想定していた観光客のわずか8分の1しか集まらなかった周辺の施設は大いに苦しみ、それはラ・レインボーも例外ではなかった。
そこでドライブインだったラ・レインボーをホテルに改装したのが、今のホテル ラ・レインボーである。平成2年(1990)にその工事を終え、これであまりにも少なかった車利用の観光客以外も取り込めるはずだった。
しかし、無情にもその翌年にバブルが崩壊。旅行客そのものが激減してしまい、その後何の打開策も打てないまま平成9年(1997)にホテルは廃業した。ドライブイン時代から数えても開業から10年も持たなかったことになる。そして令和5年(2023)現在も、バブル景気に沸いた当時の日本の姿を今に伝えている。
実際に行ってみた

ホテルの目の前までやってきた。ずっと行きたいと思っていた憧れの廃墟を目の前にした感動でふるえが止まらない。
実は当時ここには解体のうわさが流れていて、まだ残っているか確信が持てないまま向かったのだ。しかしそれは幸いにも杞憂に終わり、その嬉しさがさらに私のふるえを加速させていた。

同じ穴を2階から見たところ。実はここにはかつてエスカレーターが設置されていた。私がここに来る2~3年前までは残っていたらしいが、今では跡形もない。
よく見れば外壁の窓枠も全部取り払われて、ガレキなども隅に片づけられている。なので解体工事のうわさは全くの嘘ではなく、工事自体は本当にされたようだ。それが何らかの理由で中断して今に至るのだろう。

ホテル内部はスカスカで何もない。ここだけ見るとまるで建築途中系の廃墟のようだ。かつて営業していた物件にしてはあまりに不自然なので、これも解体工事の影響なのだろう。
普通のホテルの廃墟であればこれは残念極まりない事態であるが、幸いにもここは普通ではないホテルの廃墟だ。それではさっそく、その「普通ではない」場所に行ってみよう。

タワーを下から見上げてみる。その大きすぎる規模感に頭がバグりそうになる。
なお、このラ・レインボータワーは、この形式の展望台としてはなんと世界一の高さを誇る。裏を返せば、こんなアホなものは頭のおかしくなったバブル期の日本以外どこも造ろうとしなかったとも言える。
(▲ 営業当時の稼働中のタワーの写真 - ラ・レインボータワー 製品詳細データ(三精テクノロジーズ株式会社) より引用)
ちなみに稼働中の様子を収めた貴重な写真が、このタワーを製造したメーカーの公開資料に残っている。
これを見て私も幼い頃、回転式の展望レストランに連れて行ってもらったことを思い出した。ゆっくりと外の景色が移り変わってゆくさまに「こりゃあとんでもないな(笑)」と子供心に思ったものだが、それですらさすがに離陸はしなかった。
こんなもんが地上を離れて大回転するってんだから、バブルってヤツはすげぇなあと改めて感心するばかりである。

そしてついにゴンドラに乗り込んだが、何だこれ狭っ! 定員は150名とのことだが、人がすれ違える余裕はいっさいなく、これでは乗客の乗り降りにかなり時間がかかっただろう。
ちなみに利用料金は大人800円、中学生までは500円だったらしい。バブル期にありがちなバブル価格ではなく、まあ妥当な値段設定だとは思う。

そのため記念に筆者は中央の塔にタッチして帰ったが、高所恐怖症ではない私でもこれはさすがに怖かった。潮風にさらされて長期間整備されていない橋など、まったく信用できなかったからだ。
「記念」のために死んでは馬鹿すぎて話にもならない。まぁ……でもそれだけこの廃墟にはずっと来たかったのだ。
この頃はまだ建物の管理はそこまで厳しくなかったが、今ではそれが嘘のように厳重な管理が敷かれているため、内部の探索はもはや不可能と言っていい。そういう意味でもこの日ここに来れて本当によかったと思う。

部屋には昔のジャンプが落ちていたが、ダイの大冒険とか懐かしすぎだろ(笑) 右下にはこっそりターちゃんもいる。おそらく職員が休憩中に読んでいたものだろうが、これらがリアルタイムで連載されていた時代のことなんだなと思うと何だか胸が熱くなる。

さて、それでは展望台を後にして、この廃墟の「ホテル」部分を以下に見ていくとしよう。
まずは客室へ伸びる廊下を写した一枚だが、この廃墟、実は展望台の他にももうひとつ見どころがある。それが壁に描かれた美しいグラフィティの数々だ。

なおホテルの客室だが、もともとドライブインだった建物に無理矢理部屋をねつ造した影響で、色々とおかしな事になっている。私の目にはこの部屋は、建物の中に設置されたプレハブ小屋にしか見えない。これで客から文句は出なかったのだろうか。

屋上から近隣の遊園地「ブラジリアンパーク 鷲羽山ハイランド」の方を望む。中央右付近にラ・レインボータワーと似た形の塔が見えるが、実はこれも同じ仕組みの展望台「スカイビュー」である。
しかしこのスカイビュー、現在は運行を停止している。遊園地の公式サイトやWikiを見ても完全に無かったことにされており、再開の見込みはない。まったく……これではまるで可動式の展望台が施設を廃墟に導く呪いの装備のようじゃないか。

(▲ 香川県の「瀬戸大橋タワー」 - 写真は PhotoAC より)
そして何を隠そう、瀬戸大橋を渡った対岸側の香川県にも同じ仕組みの展望台「瀬戸大橋タワー」がある。これらがお互いに需要を食い合ったのが、ラ・レインボー閉鎖の一因になったと思われる。
なお、この瀬戸大橋タワーは県営であり、香川県の威信がかかっているためか現在でも運行が維持されている。ゴンドラの高さは地上108mになり、これは稼働状態にある同形式の展望台としては世界一の高さである。
「ゴンドラが上下に動いてしかも回転する」というバブル期の謎ギミックを体験してみたいという方は、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。
・瀬戸大橋タワー(坂出市公式サイト):https://www.city.sakaide.lg.jp/soshiki/sangyoukankou/setoohashi-tower.html
【廃墟Data】
状態:健在 ※機械警備導入
難易度:★★★★★(最高)※年間で数十人単位の逮捕者あり。現在では実質的に探索不可能。
駐車場:ホテル ラ・レインボーの旧駐車場を利用(→地図)
所在地:
- (住所)岡山県倉敷市下津井吹上303-32
- (物件の場所の緯度経度)34°26'41.7"N 133°47'46.6"E
- (アクセス・行き方)
【自家用車】瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)「児島IC」より、県道393号線経由で約4分(2.5km)。
【公共交通機関】JR本四備讃線(瀬戸大橋線)「児島駅」にて下車。駅前より下電バス「下津井循環線(S1)」に乗車し、9駅後の「鷲羽山ハイランド遊園地前」バス停にて下車。バス停より徒歩約2分(200m)。