山奥の厳しい渓谷に、その廃墟はあった。
雪の降り積もる細い山道をバイクで乗り越えてようやくここまで来たが、そうして目に飛び込んてきたものは、何者かにより放火され、解体・撤去されてしまった“亡き”廃墟の姿だった──
なかば呆然としながら、在りし日の痕跡を確かめるように一歩一歩瓦礫の上を歩いていく。
永遠に続くかのような、灰色の世界。
もう春だというのに、生き物の声ひとつ無い。
隔絶されたこの世界にいるのは、もはや自分一人だけなのではないだろうか?
……ふと目線を上げる。
そこにあるものは、山間をただただ吹き抜けていく、冷たい、風の音だけだった。